日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

春まだ浅い駿河路へ(5)

2012-02-04 12:31:11 | 東海
東海道をさらに下って薩埵峠を訪ねます。昨秋から数えて三度も訪ねたおなじみの場所とはいえ、澄み切った空の下では海の青さが全く違い、彼方に望む富士の高嶺も俄然絵になります。
前回訪ねて気付いたのですが、この峠は由比側と興津側で全く違う道になります。圧倒的に険しいのが由比側で、由比の町から車一台すれ違うにも難儀する旧道を延々走った後、本当に車が上れるのかと思うような急坂をこれまた延々上ってようやくたどり着くという線形で、着いた時にはたかだか3kmという距離以上の疲労感を覚えます。これに対して興津側にはさしたる急勾配も急カーブもなく、麓の集落の外れからごく普通の山道を少し走って、坂が急になってきたと思った頃にはもう着いています。海岸の高さから上るのはどちらも一緒であって、それなら急坂で一気に上るか、緩い坂で距離を稼ぐかのどちらかになるはずだというのに、ここでは長く走る方が圧倒的に険しい道のように感じられるのですから、何とも不思議な話です。
もう一つ不思議なのは、これほどまでに線形が違うというのに、由比側の悪路の方が圧倒的に交通量が多いということです。しかしこれには明確な理由があります。何の見所もないままあっさり終わってしまう興津側の道に対して、由比側では東海道の古い町並みからミカン畑の急斜面に張り付き、所々で駿河湾を望みつつ頂上までたどり着くという変化が楽しめ、到達の困難さはともかくとして、どちらが楽しいかといわれればやはり由比からの道なのです。旅とは目的地に到達するまでの過程そのものなのですから、早く着けばそれでよいというものでもありません。由比からの険しい道が、そんな当たり前の事実を今さらながらに教えてくれているようです。

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