日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

錦繍の飛騨を行く - ぞん家

2015-11-22 20:09:47 | 居酒屋
今夜は自らの勘を信じると申しました。その直感に従い、自ら当たりをつけた店に飛び込みます。訪ねるのは「ぞん家」です。
アルファベットでZONCHIと添え書きされていたから分かったものの、前衛書道家が書いたかのような行灯の屋号を初見で読むのは難しいのではないでしょうか。そのような屋号からも、若い店主の店なのだろうということは何となく想像できました。場所はまたも「樽平」「あんらく亭」と同じ南北方向の通りで、東西の目抜き通りを入ったところにある「樽平」、中ほどにある「あんらく亭」を通り過ぎ、飲食店の明かりが尽きる直前にあります。町家が小ぎれいに改装されており、格子戸の向こうにはカウンターを中心にした店内が見え、これならある程度期待できそうだと思える店構えです。呑み屋街を観光客が闊歩する中、幸いにして先客はおらず、まずはここだと決めて暖簾をくぐりました。

二重になった玄関で靴を脱いで中へ入ると、手前に掘り炬燵のテーブルが二つ、突き当たりにカウンターがあり、若い店主とお姉さんが迎えてくれました。床は畳でテーブルとカウンターは艶やかな一枚板、壁には幅何mあるのかと思うようなただならぬ屏風絵が。和を基調にしながらも現代的に再構成されたような店内は、魚津の「ねんじり亭」を彷彿とさせます。そう感じるのはカウンターが間口に対して若干斜めになっているからでもあり、よくよく見ると敷地が長方形ではなく台形になっていました。変則的な敷地の形状を巧みに生かした店内の造りは上々です。
横長の和紙に上下二段組で綴られた日替わりの品書きは魚介中心で、飛騨牛以外のご当地ものはありません。「あんらく亭」と同様、こちらも観光客には迎合しない御常連御用達の店なのでしょう。しかし「あんらく亭」と違うのは、調理法が見るからに凝っていることで、油掛け焼き、松前焼き、大和蒸しといった聞き慣れないものが多くを占めます。果たしてお通しに出されたお椀は蕪をくり抜いて海老真丈を詰め、飾り包丁を入れて柚子皮を添えるという、見るからに手の込んだ一品でした。次いで選んだ鴨肉も、深めの器に塩を詰め、そこに焼いた石を置いてから肉を乗せ、葱と金山寺味噌を添えるという凝りようです。教祖の推奨店の中でも、技巧についてとりわけ絶賛されているのが浜松の「貴田乃瀬」ですが、あちらもかくやと想像させられました。聞けば以前は奥飛騨の旅館にいたそうで、居酒屋の域を超えた技巧も宜なるかなといった感があります。
それはよいのですが、店主とお姉さんに対して一見客一人という状況は少々ぎこちないものがあります。そう感じていたところへ常連と思しき一人客が現れ、店内の空気が変わりました。明らかに西日本寄り、しかし関西とは全く違う、北陸的な飛騨弁が旅情を誘い、この店本来の姿を垣間見たようでした。静かに呑めるのが一番とはいえ、酒場には適度な賑わいも大切ということでしょう。当たり前の事実を再認識したところで席を立ちます。

ぞん家
高山市総和町1-23
0577-35-2022
1800PM-2300PM

氷室
突き出し(海老真丈のお椀)
カモ肉もろ味噌漬け
焼穴子の大和蒸し

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