日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

九州沖縄縦断ツアー

2013-12-21 21:38:18 | 居酒屋
宿へ戻って一風呂浴び、機材を置いて再び夜の街へ繰り出します。二軒目に訪ねるのは「かわむら」です。
迷路のような小路に長屋がひしめく思案橋の呑み屋街は、全国広しといえどもどこにもない独特の情緒を持っています。そして、電車が通る目抜き通りにも、そのような古い長屋が軒を連ねている一角があります。その中ほどに位置するのが、「くじら」の懸垂幕を掲げたこの店です。

教祖による著作の中で、情報源として最も有用なのは、当然ながらその用途に特化した「居酒屋味酒覧」です。一方、読み物として書かれた著作の中で、情報源として最も参考になったものは何かと問われれば、私は「ひとり旅 ひとり酒」を選びます。季刊誌で五年間、全20回続いた連載を単行本にしたのがこの本で、「西の旅」という雑誌の表題からも分かる通り、西日本の都市を各回一つずつ取り上げ、そこに二晩滞在して、昼間の町歩き、食べ歩きから夜の酒場めぐりに至る一部始終を綴ったものです。「居酒屋味酒覧」「居酒屋百名山」などの代表作に登場する有名店も、初出はこの本だったということが少なからずあります。
加えてこの本には、他の著作には登場しない、しかし信者の誰もが知る有名店に遜色ない名店がいくつも登場します。自身過去に訪ねた中では、博多の「一富」と「浅草」などがそうでした。そして、これらと同様に長崎の回でひっそりと登場するのがこの「かわむら」なのです。

いかにも長屋の店らしく、間口の狭い店内はカウンター一本のみというささやかさです。上から歓声が聞こえてくることからして、二階には座敷があるのでしょう。若干安普請にも思えるものの、角刈りの快活な店主と女将に迎えられ、きれいに磨かれた厨房を一瞥すれば、この店は違うとすぐに分かるでしょう。もっとも、「居酒屋味酒覧」の掲載店と違い、県外からお客が訪ねてきそうな気配はなく、見るからに地元客向けの店といった雰囲気です。その点では、教祖のおすすめというより、むしろ「酒場放浪記」に出てきそうな店というのが第一印象です。
ホワイトボードに書かれた品書きは、店の看板でもある鯨に始まって、刺身、焼物、一品という順に並び、もう一つの看板である串揚げがこれに加わります。赤身、さえずり、ベーコンなどに加えて、「すえひろ」など聞き慣れない部位を含めて八種ほど揃うのが、いかにも鯨肉文化を持つ長崎らしく、これといった酒がないのもこれまた長崎ならではです。ただし、2500円もする高価な盛り合わせは当然ながら選択できず、だからといってこれらの中から一つに絞ることもできません。しばし思案の結果、「安楽子」ではありつけなかったヒラス、すなわちヒラマサの刺身を選びました。

突き出しがつけ揚げとおひたしの二品あり、これに刺身が加われば、二軒目としては必要十分ともいえます。しかし、ここでもう一つ試してみたいものがありました。教祖が「ひとり旅 ひとり酒」で紹介していた「地獄煮そうめん」です。島原の素麺を使い、鯨で出汁を取ったもので、高価な刺身と違い600円と価格も手頃。最後はこれをいただくことにします。
すまし汁を一口すするやいなや立ち上る風味は、まさに鯨のそれです。しかも、ただ出汁を使っているのではなく、鯨の様々な部位が使われています。あら汁と同じ要領で、細切れの部分を効率よく使っているのでしょうか。いずれにしてもこれは価格以上の満足感があります。この素麺をいただくだけでも、この店に再び足を運ぶ価値はありそうです。

★かわむら
長崎市本石灰町1-3
095-821-9100

三岳
突き出し二品
ヒラス
地獄煮そうめん

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