森田宏幸のブログ

Morita Hiroyukiの自己宣伝のためのblog アニメーション作画・演出・研究 「ぼくらの」監督

梅原さんとの喧嘩

2006年06月12日 03時56分44秒 | サン・アート
 梅原さんがまたやってくれた。

 先週土曜日(私がサンアートに行くのはだいたい毎週土曜日夜9時半から12時のコースなのだけれど)、夜9時半にサンアートに行くと、富士展の搬入を引き受けてくれる車が、10時にメンバー全員の作品を取りに来るというのである。
 搬入(ギャラリーに作品を運び込むこと)は日曜だから、12時までに作品の準備を終えればいいと悠長に構えていた。額の裏に紐をつけていない作品があったし、名札も準備できていなかったので慌てた。それから30分というもの、私は梅原さんと喧嘩しつつ、準備を進め、なんとか間に合わせたのだけれど。。。

 私は、10時に搬入車が来ることを知らなかった。「聞いてなかったよ」というわけだ。しかしこのような時、梅原さんが面白いのは、決して「言った言わない」の争いにしないところだ。私が「聞いてないよ」と言うと、「そういう問題じゃない」と言ってくる。四の五の言わずに、臨機応変に今すぐやれ、といった調子なのだ。これは梅原さんのガキ大将的な性格(先生だから当たり前だけれど)から出てくる調子でもあるのだけれど、それとは別に、梅原さんには梅原さんなりの考え方がある。

 アニメーションの仕事の現場でも「言った言わない」のトラブルは日常茶飯事。「言ったのにやってない」「必要な連絡をし忘れた」というケースで、「連絡不行き届き」が原因だけれど、梅原さんはこういう考え方はしない。
 10時に車が作品を取りに来るというような案件でさえも、毎週一緒に絵を描き、一緒に絵画展をやろうという意識を共有できていれば、自然と伝わるものだという考え方をする。「言ったのにやってない」ということを怒るよりも、私のサンアートに対する情熱のなさを疑って怒るのである。たとえ言ってなくても、気が付いたり、察したり、第六感が働いたりしなきゃいけないという、一見、無茶苦茶とも思えるような要求を、梅原さんは大まじめに我々メンバーに説く。  

 アニメーションの仕事の合間に絵画に取り組む私にとって、この要求が酷な話かどうかは個人的問題なのでほっておいてもらうとして、面白いのは、梅原さんのこうした感じ方、考え方は、私たちメンバーに絵を教えるときにこそ、本領を発揮するということだ。
 梅原さんは、私に筆遣いや絵の具の使い方、配色のテクニックなど、順序立てては決して教えてくれないのである。月謝を払ってるのにあんまりじゃないかと思って、「もうちょっと丁寧に教えてくれたら、、、」と話したことがある。そのように話した何度目かで、梅原さんはその心中を打ち明けてくれた。

「あんまり丁寧に教えると勘が育たなくなる」

 私はそんな考え方もあるのかと、驚いてしまった。

 梅原健二さんは、ある種の絵の描き方を伝授するといった教え方をしない。そうではなく、自分のスタイルを持った本物の画家を育てようとするのである。教える順序など決めないし、みんなに同じ教え方もしない。それぞれの個性とその場の気分に合った教え方を臨機応変に一緒に編み出していこうとする。そして技術が身に付くことより何より、自分の表現を自分で見つけだせる感性を、培わせようとするのである。

 思えば、アニメーションの現場で人を育てる時の「研修」は、前者の教え方ばかりだった。私自身もそのように教えられてきたのだ。そう思った時、私はこれまで、本当の意味での師匠に出会って来なかったということに気が付いて、愕然とする。
 たとえば立場上、口うるさく威張るタイプのアニメーション監督というのも多いけれど、梅原さんは決して、威張り散らすだけの人でもない。
 梅原さんは、前述のような厳しい当たり方を私たちメンバーにする時はあるけれど、次の週会った時は、またニコニコと冗談まじりに声をかけてくれて、一緒に絵に取り組んでくれる。厳しさは温かい愛情とセットだと思える。そんなことの繰り返しで、私もなんとなく、サンアートを続けてきた。梅原さんにとって絵を教えるとは、絵を通して我々と永く付き合うということでもあるらしい。

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1 コメント

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Unknown ()
2019-03-15 09:59:40
以前、サンアートに通っていました。
何度か森田さんともお話ししながら、絵を描かせてもらっていました。
ケンサンのエピソード、懐かし見ながら読んでいます。
ありがとうございます。
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