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デパートで迷子★そのまま大人

毎日のいろんなこと。

HOTCAKE ROMANCE~エピローグ

2007-05-05 07:42:33 | 連載小説
(エピローグ)

これは小さな国の小さなお話で信じるも信じないもキミ次第なのです。

アポネに行く決心をしたヘンゼル。
カパスに残る決心をしたキャシー。

男の子と女の子は離れてしまって行き違いになるのです。

だけど、

ヘンゼルがカパスに戻るとき、
キャシーがアポネに向かうとき、

きっと2人はまた出会うはずです。

その時にヘンゼルが、キャシーが今よりも大人になっているでしょう。

それでも2人があの日あの時に食べたホットケーキのことは忘れていないはずです。

おしまい

HOTCAKE ROMANCE★第9章「ふるさと」

2007-05-05 07:39:06 | 連載小説
第9章「ふるさと」

2人は夕日を背中で受け止めながらベンチに座っている。

「キャシー・・・・・」

「なぁに、ヘンゼル」

僕はバスケットをキャシーに渡した。

「開けていいの?」

僕は黙って頷いた。
というか、キャシーが美味しく食べてくれるか不安で言葉が出なかった。

「まぁ、ホットケーキ! すごくふっくらしてて美味しそう」

「僕が焼いたんだよ。食べてみてくれないか」

「うん」

キャシーはハニーシロップをちょっとだけホットケーキにかけて食べ始めた。
僕はどきどきしながらその姿を見つめる。
1秒が1分いや10分くらいに感じる。

キャシーの反応が待ちきれずに思わず聞いてしまう。

「どう?」

「ほんとに美味しい。ほんとにヘンゼルが焼いたの?」

「そうだよ。美味しくて良かった」

「こんなに美味しいホットケーキ食べたの初めてよ」

「嬉しいよ、キャシー」

「このホットケーキの自然な甘みはどうやって出したの?」

「あぁ、さすがキャシーだね。それは牛乳なんだよ」

「え?牛乳?」

「うん、マイコーの家の牧場の牛乳を使ったんだよ。
 マイコーとこの牛乳はこういうお菓子作りには抜群に相性が良いんだ」

「その口ぶりからすると相当勉強したんでしょう?」

「へへへ、キャシーに美味しいホットケーキを食べてもらいたくって」

「嬉しいわ、ヘンゼル」

僕も嬉しいよ、キャシー。
これで、これで素直にきみに僕も話ができるよ。

僕が意を決して、
「ねぇ、キャシー・・・・・」と言い始めたときに、
キャシーも「ねぇ・・・・・」と言ったものだから何だか可笑しくって僕もキャシーも笑ってしまった。

張りつめていた何かが2人の間から消えていく。

「キャシーから言いなよ」
「えー、ヘンゼルから言ってよ」

今度はなかなか照れくさくなってお互いに言い出せなかったので、
じゃんけんで話す順番を決めた。

そして、キャシーが負けてキャシーから話すことになったんだ。

「ヘンゼル、私考えたんだけど・・・・・アポネには行かないわ。
ここでだってダンスの勉強はできるはずよ。

私は自信がなかったからアポネに行こうとしてたんだって気付いたの。
この町にいるとみんながいる。
家族がいる、友達がいる、ヘンゼルがいる。

私はそれに甘えてダンスの勉強がしたいって気持ちを忘れそうだと思ってたの。
一人になったらダンスにしか目がいかなくなるでしょ?

でも、もう少しここで私なりに勉強して自信をつけてからでも遅くはないはずよ。

焦っちゃだめだわ。

それにヘンゼルのホットケーキを食べて思ったの。

この町にしかないものを私は見ていなかった。
私は外ばかりに憧れを持ってこの町の良さをわかっていないのよ。

この町にしかない何かを吸収してからアポネには行くわ。

決心させてくれたのはあなたのホットケーキのおかげよ、ありがとう」

僕は・・・・・僕は驚いた。

「キャシー・・・・・・僕は、僕はお菓子の勉強をしにアポネに行こうと思うんだ」

今度はキャシーも驚いた。
キャシーの大きな瞳がいつも以上にぱっちりと開いている。

「僕はキャシーみたいにはっきりと何かを強く思うってことは今までなかったんだ。
でも、キャシーにホットケーキを焼こうと思ってお菓子の本を読んでいて、
自分の知らないことがいっぱいあるって気付いたんだ。
そして、僕はその知らないこと知りたいって思ったんだよ。

それはこのカパスにいたんじゃ無理なんだ。

僕はアポネに行く。

アポネに行ってもっともっと美味しいお菓子を作ってキャシーに喜んでもらいたい。
喜んでもらえたらこの町に僕のお菓子屋さんを作って町のみんなに食べてもらいたいんだ。

そう決心できたのは美味しいホットケーキをキャシーに食べてもらいたいと思ったのがきっかけだよ。

僕はお菓子の勉強をしにアポネに行くよ」

HOTCAKE ROMANCE★第8章「Mr.Moonlight~愛のビッグバンド~」

2007-05-04 07:03:31 | 連載小説
第8章「Mr.Moonlight~愛のビッグバンド~」

カパスの町はいつも正午になると町の中心部の教会の鐘が3分間なるのだが、
毎年、卒業パーティーの日にはその教会の鐘の後に5発の花火が上がる。

学生達はもちろん、町中の人が卒業する学生を祝ってくれる幸せな1日。

僕はキャシーの家へと続く長い坂道を急いで登っている。
片手には花火と同時に焼き上がったホットケーキ。
キャシーが食べる頃には冷めちゃうけども、
そればかりはどうしょうもない。

そこまでは考えていたんだけども、
ホットケーキを入れるバスケットを用意するのを忘れていたんだ。

丁度良いサイズのがなくって妹から借りたりしていたら、
今度はスーツに着替えるのを忘れていたことに気付いた。

さすがにTシャツで卒業パーティーに行くわけにはいかない。

というかその前に、キャシーが一緒に行ってくれない。

そんなこんなで僕は急いでキャシーの家へ向かっている・・・・・・

ようやくキャシーの家に着きドアをノックする。

「キャシー、遅くなってごめん」

「遅いよヘンゼル、おいてかれたのかと思ったわ」

キャシーが出てきた。
赤いワンピースを着ていて、ほんとにかわいい。

「さぁ行きましょう、ヘンゼル」

「う、うん。ごめんねキャシー」

早足で歩きながら僕はキャシーに切り出した。

「遅刻して頼みづらいんだけど・・・・・いいかな?」

キャシーは笑って言った、
「いいかな?だけじゃわかんないよ」

「そうだよね、ごめん。パーティーに行く前にあの公園に寄らないかい?」

「そうね、私も話したいことがあるし。ヘンゼルも話があるんでしょう?」

「なんでもお見通しなんだね」

「もちろんよ。私はヘンゼルのガールフレンドよ」

公園に着いた頃には夕方になっていて、
あの日と同じオレンジ色の光がキャシーを包む。

学校の方角からはビックバンドがスウィングを奏でている音が風に乗って聞こえてくる。

「あの曲は『ミスター・ムーンライト』ね」

「うん。キャシーと初めて会った時のダンスパーティーを思い出すよ」

2人はベンチに座った。

HOTCAKE ROMANCE★第7章「THE マンパワー!!!」

2007-05-03 08:40:07 | 連載小説
第7章「THE マンパワー!!!」

僕はキッチンで選んだお菓子の本を読んでいる。

そこには僕の知らないいろんな種類のお菓子がたくさん載っていて、
どれもこれも甘くて綺麗でかわいくてどれも美味しそうだ。
僕の知らないことってたくさんあるんだなぁ。
キャシーもアポネに行ったらいろんな新しいモノを見つけるんだろうな。

僕は再び本を読み、実際に作ってみることにした。

卵2個、砂糖80g、牛乳150cc、バター大さじ2
薄力粉200g、ベーキングパウダー小さじ2
バニラエッセンス少々、塩少々・・・・・

鍋にバターを入れ、弱火で溶かしバターを作る・・・・・
卵に砂糖を加えて、泡立て器で白っぽくなるまで混ぜる・・・・・
それに牛乳、バニラ、溶かしバターを加えよく混ぜる・・・・・
薄力粉、ベーキングパウダー、塩ひとつまみを入れて混ぜる・・・・・
粉ふるいでボウルにふるい入れ、滑らかになるまでよく混ぜる・・・・・
弱めの中火でふたをして焼く・・・・・

出来上がったものを食べてみたが何かが足りない。

家族に食べてもらったが「美味しい」と言うだけで誰も気付かない。

何なのだろう?
なんでみんな気付かないのだろう?

見た目は厚さも3センチくらいあって、
ふっくらして美味しそうなのに・・・・・

何度も何度も本を読んだけどもわからない。

次の日から僕は何かに取り憑かれたように本屋さんに通ったり、
町のお菓子屋さんに行ったりして何枚ものホットケーキを焼いた。

ただただ大好きなキャシーに美味しいホットケーキを食べてもらいたかったんだ。

そして、明日は卒業パーティー。
僕は今晩もホットケーキを焼いている。

HOTCAKE ROMANCE★第6章「ここにいるぜぇ!」

2007-05-02 08:35:21 | 連載小説
第6章「ここにいるぜぇ!」

今、僕は学校に近くの本屋さんに来ていてお菓子作りの本を選んでいる。

決して答えを出すことから逃げているわけじゃないんだよ。

答えが出たわけじゃないけど、1つだけわかったんだ。

僕はここにいる。どこにも行かないでここにいる。

夢を持たずにキャシーと一緒にアポネに行っても彼女に迷惑をかけるだけだし、
僕自身というものが希薄過ぎて男らしくない。
当分は父の手伝いをして本当にやりたいことを探そうと思うんだ。

キャシーにはまだ「卒業パーティーに一緒に行こう」としか言っていないけど、
卒業パーティーの日にキャシーにちゃんと話そうと思う。

僕の作戦はこうだ。

卒業パーティーの日に早めにキャシーを迎えに行き会場に行く前に、
時間があるからとか適当な理由をつけて、あの公園へと誘う。

そこで僕は自分の気持ちをはっきりとキャシーに告げる。

ここで別れるという結果にはなるが僕は最後のプレゼントを渡す。

そして、最後の思い出にしようよなんて言って卒業パーティーへと向かう。

やはり問題は別れるという結果に落ち込んでしまって卒業パーティーまでたどり着けるかというところ。
なのでプレゼントの役割が重要になる。

僕はそのプレゼントを手作りのホットケーキにしようと思うんだ。
アポネに行っても公園でホットケーキを食べたことを思い出すと同時にこのカパスの町を思い出して欲しいから。

形には残らないけど、今の僕にはそれが一番良いと思うんだよ。
だから僕は本屋でお菓子の本を選んでいる。

HOTCAKE ROMANCE★第5章「シャボン玉」

2007-05-01 08:04:19 | 連載小説
第5章「シャボン玉」

あの公園でのキャシーの話を聞いて上手く答えることができなかったせいで、
僕とキャシーの間には何だか喧嘩したときとは違う気まずさが漂っている。

廊下で顔を合わせてもどこかぎこちないし、
あれからデートはもちろん2人きりで話もしていない。

僕はキャシーを好きだしキャシーも僕をきっと好きでいてくれている。

それなのに上手くいかない。

弱虫な僕がいけないのだ。

あれから僕だってたくさん考えたよ。
いろんな選択の中をぐるぐる回りながら考えたよ。

僕も一緒にアポネに行くことも考えたし、
このまま別れることだって考えたんだ。

それでもはっきりと答えを出せないのは自分の将来が決まっていないからだ。

僕はこのままだとふわふわ風に煽られて浮かんでは消えるシャボン玉みたいだよ。

時間は答えを待ってはくれない。

再来週は卒業パーティーだ。
卒業生の誰もがパートナーつまり恋人を連れて出席する。

毎年ビックバンドがスウィングを奏でてダンスをしたり、
夜空に上がる花火を眺めたり、お洒落して美味しい料理を食べたりする卒業パーティー。

僕はもちろんキャシーと一緒に参加する予定だ。

だから、それまでにキャシーの告白に僕なりの答えを出さなきゃいけないんだ。

HOTCAKE ROMANCE★第4章「恋のダンスサイト」

2007-04-30 06:56:22 | 連載小説
第4章「恋のダンスサイト」

僕は久しぶりにあったキャシーといろんな話をした。
共通の友達のこと、家族のこと、残り少ない学校生活のこと、将来のこと・・・。

「ヘンゼル、進路って決まった?」
「ううん、まだだよ。キャシーはどうなんだい?」

オレンジ色の夕日がキャシーを照らしている。
僕はオレンジ色に照らされているキャシーに吸い込まれそうになる。

「そのことなんだけど・・・」

キャシーは何だか言い辛そうにしている。

「決まったのかい?」

「実は・・・私ね、ずっと考えてたんだけど・・・踊りの勉強がしたいんだ。」

「いいじゃないか。キャシーはダンスが上手だし勉強するともっと上手くなるよ。」

「ただ、それで・・・ロプロに行こうと思っているの・・・」

「え・・・、本当かい?!」

ロプロとはプーランの首都・アポネにあるダンススクールだ。
ヘンゼルとキャシーの住んでいるカパスからアポネまで300㎞。

もちろん今のように飛行機も新幹線も無いし、携帯電話もパソコンも無い時代。

田舎町カパスの学生達のほとんどはそのまま町に残って就職していたのだ。
ヘンゼル自身も将来のことを決めていないものの、
ぼんやりとこの田舎町のカパスに残るものだと思っていた。

カパスの町から出るということは別れを意味していた。

僕は、僕は頷くだけでキャシーに上手く何も言ってあげられなかった。
泣かないようにするだけで精一杯だったんだよ。

そして、雨がいきなりザァーっと降り出したんだ。

HOTCAKE ROMANCE★第3章「Do it! Now」

2007-04-29 11:56:25 | 連載小説
第3章「Do it! Now」

6時間目の数学の授業終了を知らせるチャイムが鳴ると同時に、
僕は急いで教室を出て階段を駆け降りた。

公園まであと少し。

別に待ち合わせの時間に遅れてるわけでもないのに、
僕は息を切らして走っていた。

案の定、キャシーはまだ着いていなかった。

僕は公園の噴水近くのベンチに座り彼女を待った。

幾度と無くここでキャシーと夢を語ったり、
大きなソフトクリームを食べたり、
一緒に大好きなカントリーソングを歌ったり。

そんな一つ一つの小さな思い出を思い出していた。

「ヘンゼル~」

しばらくして僕を呼ぶキャシーの声が聞こえた。

キャシー、僕は君と一緒に時間を共有するために生まれてきたのかもしれないよ。

「ヘンゼル、待った?」
「いや、全然待ってないよ。今着いたとこだよ、キャシー。

僕は脇にかいた汗をキャシーに気付かれないか、
それだけが不安だったんだ。

HOTCAKE ROMANCE★第2章「Memory~青春の光」

2007-04-29 07:12:43 | 連載小説
第2章「Memory~青春の光」

僕はプーランの首都・アポネから南に300㎞離れたカパスという田舎町のカパス高校に通っている。
18歳なのでもうすぐ卒業、これからの進路を決めなくてはならない。

友人のトミーもジェイソンもマイコーももう進路が決まっている。
この学校で決まっていないのは僕とガールフレンドのキャシーだけだ。

今日は放課後に学校の近くの公園でキャシーと待ち合わせをしている。
なんだか最後のテストや進路相談なんかで最近忙しかったので久しぶりにデートだ。

キャシーは僕と違って何でもできる女の子だ。

歌を歌っても上手いし勉強もできる。
スポーツだって得意だし学校中の人気者だ。

そんなキャシーと去年のダンスパーティーで意気投合して付き合うようになったなんて奇跡としか言いようがない。

もちろんプロポーズは僕から言った。

アルバイトで貰った給料の半分くらいのお金を使って買った花束を渡してプロポーズしたんだ。

ジェイソンにも「キャシーはおまえのどこがいいんだろう?」なんて言われるけども、
奇跡なんだからしょうがないのだ。

僕はぼんやりと久しぶりにデートのことを考えていて全然授業に身が入らなかった。

<早く放課後にならないかなぁ・・・>

ふと辺りを見渡すとトミーと目があった。

トミーは高校を卒業後に父が経営しているレストランで働くことが決まっている。
彼は教科書の上に料理の本を置いて読んでいるようで、
僕にその本をちらりと見せて視線をその本に戻した。

もうあと1,2ヶ月で卒業だなんだなぁ。
僕はこの先どうしたいのだろう?
そして、どうなるんだろう?

父は焦って決めなくてもいいなんて言ってるけど、
僕とキャシー以外はみんな進路が決まっている。

そのこともキャシーと今日はゆっくりと話そうかな。

HOTCAKE ROMANCE★第1章「モーニングコーヒー」

2007-04-28 10:34:16 | 連載小説
第1章「モーニングコーヒー」

チュンチュンという鳥の声が聞こえて優しい日差しがカーテンの隙間から漏れてくる。

僕の名前はヘンゼル、今年で18歳になる。
僕は長男で3歳下の妹がいる。

僕は起きあがってカーテンを開けた。

小高い丘に僕の家はあって僕はここから眺める景色が大好きだ。

僕は着替えて階段を下りて居間に向かう。

「おはよう、ヘンゼル」
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう、ヘンゼル」

父と母、妹がもう食卓でトーストとベーコンを食べている。

「おはよう」

僕は椅子に座りトーストをかじる。
この分厚いトーストから僕の朝は始まる。

父が窓の外を見ながら、ぽつりと
「今日は午後から雨が降りそうだな」と言った。

たいてい父の天気予報は当たる。
なので僕はいつも大人になると何でもできものだと思ってしまう。

「2人共、傘を持って学校に行くんだよ」
母はそう言ってコーヒーを運ぶ。

何も変わらぬいつもと同じ朝。