デパートで迷子★そのまま大人

毎日のいろんなこと。

Gum★エピローグ

2007-09-12 05:05:34 | 連載小説
エピローグ~ガム

あれから私は毎日毎晩、姿の見えない魑魅妄想(ちみもうそう)と戦っている。

鈴木舞と話せば宮永里奈の機嫌が悪くなり、
宮永里奈と話せば鈴木舞の機嫌が悪くなっている気がする。

そして、どちらも私に好意があるように思える。

もちろんそれを確かめる術もないのだが、
毎日毎晩、それを考えている。

『定理に基づく理屈なんてものは私にとっては味が無くなり捨てられたガムにしかすぎない』

だから私は何事も疑って生きてきた。

けれど、このように定理がまったく無い場合にどうすることも出来ない私は何なのだろう?

今まで掴んできた真実や本質なんて何の役にも立たなかった。

『味が無くなり捨てられたガム』とは私自身なのかも知れない。

味の無くなったガムを吐き出して新しいガムを噛むような感じで、
私が変わらなくては彼女たちの気持ちを確かめることなんて出来ないと思う。

私の中の魑魅妄想(ちみもうそう)とはもしかすると世間一般で言う「青春」というものなのかも知れない。

最も嫌いな言葉なんだけどな。

私は結局のところ、鈴木舞と宮永里奈どちらが気になるのだろうということを考えた。
すると、考えることもなく顔が浮かんできた。

それから私はその女の子と手を繋いで公園を歩いているところを妄想した。

こうやって妄想することも傲慢なことなのだろうか?

私はポケットから新しいガムを開けて口に放り込んだ。

「くちゃくちゃ」という音が響く。

(おしまい)

Gum★3章「ローズヒップ」③

2007-09-11 04:58:19 | 連載小説
3節「魑魅妄想」

私は自分の部屋のベットで眠れずに天井を見つめている。

パソコンデスクの上には食後に宮永里奈がくれたローズヒップ味のガムが置かれている。

宮永里奈は「叱ってくれるということは自分のことを考えているということなので嬉しかった」と言っていた。

最近の若い女の子はよくわかんない。
ただでさえ女性という生き物がわからない私にはさっぱりだ。

終いには「これからも宜しくお願いします」で、
まるで私に好意があるようにさえ思えた。

鈴木舞もよくわからない。

やはり、懐いていると言うよりも私に好意があるように思える。

鈴木舞といい宮永里奈といいよくわからなさすぎる。

自分に好意をもってくれているのではないかと思ってしまう自分が、
調子に乗っているようで気持ちが悪い。

現実は昼のドラマのように都合良くないことくらい理解しているつもりだ。

私は魑魅魍魎(ちみもうりょう)ならぬ魑魅妄想(ちみもうそう)に取り憑かれたのだろうか?

はっきりさせたい思いもあるが単純に自分の勘違いのような気もする。

今晩はどうにも眠れなさそうだ。

人間とはこうも敏感で単純な生き物なのだろうか。

Gum★3章「ローズヒップ」②

2007-09-10 07:00:08 | 連載小説
2節「思いもよらぬ展開」

私は毎週月曜日は近所の食堂で夕飯を食べることにしている。
この店も昔からこの田舎町にある古びた食堂だ。

「カツ定食でお願いします」

こんなに月曜日から精神的に疲労していたのでは1週間もたない。
せめて気分だけでもスタミナをつけよう。

私はそんなことをぼんやりと思いながら新聞を開いて眺めていた。

「あの・・・吉野さん?」

私は新聞を置いて声の方に視線を向ける、
そこには宮永里奈がいた。

「あ、ぁぁあ・・・・・」

私は驚いて上手く返事も挨拶もすることが出来ない。

「ここによく来るんですか?」

「う、うん」

ようやく発することが出来た言葉が『うん』というのも情けない話だが、
それくらいに私は激しく動揺していたのだ。

「隣、いいですか?」

「あ、どうぞ、どうぞ・・・」

宮永里奈は私の席の隣に座った。

といってもカウンター席でお客が私しかいなかったので必然的にどこに座っても隣になるのだが。

この前のことがあるだけに何をどう話して良いか私は悩んでいた。
それはものの数秒なのか数分なのかわからないが私には数時間に感じた。

すると突然、宮永里奈は私に頭を深々と下げた。

「この前はすみませんでした」

宮永里奈は私に謝ってきたのだ。

「いや、私の方こそ・・・いや、あの・・・すまなかった・・・です」

先に年下の女の子に謝罪の言葉を言われるとは・・・ますます自分が情けなくなってきた。

「私、実は・・・少し喋っても良いですか?」
宮永里奈は何か話したい様子だ。

「あぁ、いいよ」

「私、実はあまり叱られた事って無くて・・・」

「いや、本当にすまなかった。何度でも謝るよ」

「いえ、そうじゃなくて嬉しかったんです」

Gum★3章「ローズヒップ」①

2007-09-08 04:29:58 | 連載小説
1節「後悔先に立たず」

あの悪夢の『歓迎会』から3日経って月曜日になった。

休日に何度も私はあの出来事を後悔した。

<どうして大人としての社会人としての応対ができなかったのだろうか?>
<なぜフォローの言葉が浮かばなかったのか?>

そして、それよりも鈴木舞だけにあの出来事を見られたこと・・・

『後悔先に立たず』

頭では理解していても情けないことに後悔してしまう自分がいる。

何をどうしても過ぎ去った事を変えることはできない。

なんて憂鬱な月曜日なのだろうか。

職場に着いていつもの業務が始まる。
これで私の憂鬱な気持ちも少しずつ薄くなるはずだ。

はずなのだが・・・ならない。
というか、憂鬱な気持ちとは違う新たな疑問が私の中に生まれた。

妙に鈴木舞が私に懐いてくるのだ。
懐いてくるというと語弊があるかも知れないがそんな感じなのだ。

誰にも私が教育係と言われていないのに、やたらと業務のことを聞いてくる。

それだけで「懐いている」と表現するにはおかしいこともわかっているのだが、
なんだか様子が変なのだ。

心底私を尊敬しているような素振りを見せたりするし、
まるで・・・・・いや、これは勘違いだ。

私は何だかわけがわからなくなってきた。

宮永里奈に失礼な態度をとって泣かしそうになったところを見られているので、
私が鈴木舞に弱みを握られている感じがしてビクついているだけなのだろうか?

Gum★2章「グリーンガム」③

2007-09-07 06:15:46 | 連載小説
3節「疲労の末に後悔」

疲労困憊だった私もようやく落ち着くことができた。

隣の席に座っていた鈴木舞がビール瓶を持って職場の連中に注ぎに回っているからだ。
この無駄な歓迎会も残すところあと30~40分程度で終了だろう。

今晩は家に帰っても風呂に入って寝るだけかな。

まぁ、人生の全てを有意義な時間として使う事なんてできやしないのだから、
今日はしょうがないと言えばしょうがない。

私はそんなことを考えながら頬杖をついて、ぼんやりとしていた。

「すみませ~ん」

同じく新入生の宮永里奈が瓶ビール片手に私にビールを注ぎに来た。

「吉野さん、よろしくお願いしま~す」

どうやら違うところで飲まされたのか宮永里奈は酔っているようだ。

「どうも」

私は疲れていたので早く宮永里奈がどこか違うところにお酌をしに行ってくれないかと思ったが、
残念なことにどうやら私が最後のようだった。

「吉野さん、飲んでますか?」

「あ、あぁ飲んでいるよ」

「色々とよろしくお願いしますね」

「あ、あぁ・・・」

最初に同じ話を聞いたじゃないか。

「まだまだ、わからないことも多いのでご迷惑をかけると思いますが・・・」

しつこい。

まるで面接のマニュアル本を読みながら練習している学生を見ているようで、
私は軽い苛立ちを憶えた。

「もう、自分の席に戻っていいよ」

私は苛立ちを抑えきれずに宮永里奈に冷たく言った。

「はい、じゃあ今後ともよろしくお願いします」

「しつこい」

言ってから後悔したが完全に後の祭りだった。
宮永里奈は半分泣きそうになってしまったのだ。

私の頭は完全に混乱した。

半分泣きそうな姿を誰かに見られていないだろうか?
私が抑えきれずに言ってしまった一言を誰かに聞かれていないだろうか?
どう宮永里奈に謝れば良いのだろうか?

疲労のせいで瞬時に適確な答えがでてこない。

幸い宮永里奈は小声で「すみませんでした」と言っただけで席に戻ったので、
目立つこともなく誰にも気付かれていないようだった。

私は少し安心した。

行動の選択枠が宮永里奈に謝れば良いだけになったからだ。
もちろんどう謝ればよいのかはわからないが今はどうすることもできない。
幸いなことに今日は金曜日で明日・明後日は仕事も休みだ。
その間に考えれば良い答えがでるだろうし、
時間をおくことで宮永里奈も今日の出来事の印象は薄くなるはずだ・・・・・

そんなことを考えている間に歓迎会はお開きになった。

いつも2次会は行われないので私はこれで完全に自由の身だ。

ところがここで信じられないことが起こった。

私の隣に座っていた鈴木舞がこそっと私の所に来てこう言ったのだ。

『吉野さん、あんまり気にすることないと思いますよ』

見られていたのだ!

狼狽しそうになるのを鈴木舞に隠して、
私はポケットのガムを探した。

だが、ガムは見つからない。
食べ尽くしてしまったのだ。

「私ので良かったらどうぞ」

鈴木舞は私にグリーンガムを差し出した。

「あ、ありがとう」

「それじゃあ、お疲れ様でした」

「あ。あぁ気を付けて」

私は鈴木舞に貰ったグリーンガムを噛む。
生ぬるい風が吹いている。

久しぶりに噛んだグリーンガムはやけに甘く感じた。

Gum★2章「グリーンガム」②

2007-08-30 05:51:27 | 連載小説
2節「疲労困憊」

私は極度に疲労している。

私は新入生・鈴木舞の隣の席に座って本当に中身のない他愛もない会話を続けている。

「職場の雰囲気はどうだい?」
「困ったことはないかい?」

早くこの歓迎会が終わってくれないだろうか。
部屋に掛けてある時計を見るとまだ1時間半はある、30分くらいしか経っていないのだ。

時間は正確だ。
だが、正確なものほど不正確だという学者の話をぼんやりと思い出した。

私は苛立ちを抑えるようにガムをしきりに噛んでいる。
顎が疲れるくらいに強く何枚も噛んでいる。

「吉野さんはほんとにガムが好きなんですね」

人の気も知らないで鈴木舞が私に言った。

「そう、そうだね・・・・・私は煙草も吸わないしね」

私は力なくそう言って笑った、何も可笑しくなんかないのに。

「何味が好きなんですか?」

鈴木舞が私に聞く。

「特にこれといって決まったものを買っているわけではないけど、ミント味をよく買うかなぁ」

「私はロッテのグリーンガムが好きでいっつも鞄に入ってるんですよ」

私は「へぇ~」とだけ言いコップのビールを空けた。
ガムの味と混ざって全然美味しくない。

私は鈴木舞と他愛のない話を続けた。

Gum★2章「グリーンガム」①

2007-08-29 04:57:04 | 連載小説
1節「比較とういうか分析」

私は瓶ビールをちびりちびりと飲んでいる。
この店は生ビールを置いていない。

いつも特に何とも思わないが今日に限ってはその点が非常に不快である。

それは生ビールの方が美味しいとかいうレベルの次元ではなく、
瓶ビールだと「お酌」したりされたりというのが面倒だからだ。

自分のペースで飲むことができないし、
周りに気を配らなくてはいけないので私は「お酌」という日本らしい風習が好きではない。

「どうぞ」

早速、隣の新入生・鈴木舞が私のグラスに瓶ビールを注ぎだした。

「あぁ、ありがとう」

私はしぶしぶグラスを傾けて「お酌」をされる。

<なんだかなぁ>

私は注がれたビールを日本酒を飲むようにゆっくりと飲む。
そのグラスを片手に持ちながら鈴木舞を横目で見る。

何というか派手さのない静かな女性である。
良く言えば大人っぽいとでも言うのだろうか?
彼女のかけている黒縁の眼鏡が悪いのだろうか?

明らかに同じ新入生の宮永里奈の方が若者っぽくて男にはもてそうな感じはする。

だからといって別にどうでもいい話だし、
そんな目で女性を見ているとセクハラ扱いされる昨今だ。

まぁ、なんとなくだけどセクハラ扱いしたくなる方の気持ちもわからないでもないが・・・

「どうかしたんですか?」

鈴木舞がビール瓶を持ちながら不思議そうに私をのぞき込む。

「いやいや、何でもないよ」

私は慌てて答える。
それでもまだ鈴木舞が私を不思議そうに見つめるので、
私はさらに動揺してしまって、

「いやぁ、あの、久しぶりにお酒を飲んだもので・・・」

と少し酔ったかのようなことを言ってしまった。

「あ、私もそんなにお酒って強くないんですよ」

これでは鈴木舞に気を遣われているようで心苦しい。
本来なら私が気を遣わなくてはならないのに。

「どうだい?こっちの暮らしは馴れたかい?」

自分でも吐き気がするくらい無難な質問だ。

あぁ早く家に帰りたい。

Gum★1章「ミント」③

2007-08-28 04:57:17 | 連載小説
3節「自己紹介という名の矛盾」

歓迎会は予定通りの時間に新入生の自己紹介で始まった。

今年入ったのは女性2人、
共に22歳の大卒者だ。

「初めまして、宮永里奈です・・・・・」新入生の自己紹介が始まる。

常々思うのだが、こういう自己紹介とは意味があるのだろうか?
私には何の意味もない事のように思えてならない。

公務員試験に面接も試験もあるのだし、
そこでの成果と履歴書で採用を決めているのだから改めて自己紹介する必要はないと思う。

面接官ではない我々も職場での自己紹介で名前は知っているので、
ここで紹介されなくとも何の不便も感じずに仕事ができる。

自己紹介する者と聞かされる者に疲労をあたえて、
各個人の貴重な時間を削るだけだ。

イライラしてくる。

私は胸ポケットからミント味のガムを取り出して口に入れた。
私はもちろん何の利点のない煙草など吸わない。

イライラしてくると音をたててガムを噛みたくなる衝動に駆られるが、
そこは我慢しなくてはならない。

できるだけ音をたてずにガムを噛む。

そんなことをしている間に一人目の宮永里奈の自己紹介が終わり2人目が始めた。

「初めまして、鈴木舞と申します・・・・・」

私の頭の中は昨日のニュースで報道されていた中東のテロ多発地域についての情報の整理をしていた。

<やれやれだな>

Gum★1章「ミント」②

2007-08-27 06:21:51 | 連載小説
2節「歓迎会という名の無駄」

毎年『歓迎会』は町で数件しかない飲食店の2階を借り切って行われる。

ここは料理が美味しいという評判なのだが、
他の町で食事をしたことのない私にとっては比較対象がないので何とも言えない。

私は隅の席に座って静かにこの時間をやり過ごそうと思っていたのだが、
今年からくじ引きで席を決めるらしくて私は新入生の隣の中央の席になってしまった。

これでは職場の先輩として新入生の相手をしなくてはいけないではないか。

自分もかつてはそうだったが、
先輩面して偉そうに話をするやつの話は面白くもなんともないが適当に相槌を打って聞かなくてはならない。

その時は絶対こんな奴にはならないでいようと思ったが、
まさか自分がそうなるなんて・・・・・残念でしょうがない。

もしかして、あの時の職場の先輩も同じ気持ちだったのだろうか?
いや、そんなことはない。
そこまで頭が回る男ではない。

なるべく最低限に接するようにしよう。

貴重な時間を無駄にする上にこんなに頭を悩ますなんて、
今日は無駄の最上級だな。

私は2階の宴会場へと階段を上った。

Gum★1章「ミント」①

2007-08-25 04:58:04 | 連載小説
1節「私という人間の略歴」

私は小さな田舎町の役場に勤めている。

この小さな田舎町で産まれた私はここから出たことがない。
小・中・高とこの田舎町で過ごして今もここにいる。

それは意図的に出ないわけではない。
この田舎町に特別な愛着心や郷土愛を持っているわけじゃない。

単なる偶然の積み重ねだ。

学生時代から修学旅行・遠足などの行事の前の日になると必ず私は熱を出してしまうのだ。
(両親からは興奮するからだと言われて心外なのだが)

そんなことが続いたので進路を決めるときもここから出ようとは思わなかったのだ。

幸いなことに今は私の欲しい書籍等もネットで簡単に買うことができるので不便も感じていない。
私にとって都会の魅力とは欲しい物がすぐに手に入るということぐらいだ。

汚染された空気、人工的な自然、人混みの中の汚臭、犯罪率・事故率などマイナスなイメージの方が圧倒的に多い。

でも、そんなことを他人に言うと「君はほんとにこの町が好きなんだね」などと言われかねないので口にはしない。
それとこれとはまったくの別問題だ。

本当に何も考えない人間が多くて困ってしまう。

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役場の仕事は毎日決まった内容をこなすだけの単調なものだ。
私の技量とは相等しいものとは言えない退屈な仕事だが毎日決まった時間に始まって終わるので満足している。

規則正しい時間で生活できることは人間にとって何よりも精神面でも身体面でも健康的で素晴らしいことだ。

私は決まった時間に家に帰って食事をとり、
好きな書籍を読んだりニュースを観たりといった趣味の時間が私を癒してくれる。

世界で起こる様々な出来事に対して私なりの考えがまとまったところで眠る。

それが私の1日。

私はこの暮らしが少しでも長く続くことを心から望んでいる。

<そう言えば明日は歓迎会か・・・・・適当に早く切り上げて家に帰ろう>

私は職場の飲み会や集まりが苦手だ。
上司の陰口や安っぽい郷土愛、下世話な恋愛話など低レベルな話題の連続で疲労してしまう。

だが社会人として明日の『歓迎会』と年度末の『送別会』だけはいつも出席している。

貴重な時間を年に2回も潰すのは苦痛だが社会人としての常識が問われるよりは幾分はマシだろう。

私は早めに床についた。