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デパートで迷子★そのまま大人

毎日のいろんなこと。

真夏Niプリン★6章「真夏にプリン」②

2007-06-18 06:34:57 | 連載小説
6章「真夏にプリン」

(2)「到着」

僕らは小屋に到着した。

何年か前まで住んでたこともあって想像よりかは綺麗で大きかった。
電気もまだ通っていて裸電球が玄関を照らしている。

僕らは車を降りて玄関に向かった。

「ブーン」という得体の知れない音がする。

僕らは辺りを見回す。

小屋の近くに小さめの納屋があり、
引っ越しの時に置いていったと思われる家具が無造作に置いてあってそこから聞こえてくるようだ。

コンビニで買ってきた懐中電灯で納屋を照らす。

特に何もない。

「あれじゃない?」
キノシタが指さす方を照らす。

冷蔵庫。
冷蔵庫のモーター音。

『彼女』が電源を入れたのだろうか?

僕は小屋の方に懐中電灯を向けて玄関にまた歩き出した。

周りが静かなので冷蔵庫のモーター音が以上に大きな音のように感じる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

鍵は開いているようだ。

だが、僕が横開きのドアを開けようとしたときにキノシタが僕に手招きをした。
ドアを開けるのをやめてキノシタのいる方へ歩く。

キノシタは窓から中を覗いていて僕も隣で覗いてみる。

暗くて見えずらいが茶の間で横になっている女の人とその脇には見覚えのあるアコースティックギター。

『彼女』だ。

ここからでは生きているのか死んでいるのかすら確認できないが、
今、目の前にいるのは間違えなく『彼女』だということは確認できる。

僕らは力が抜けてそのまま下に座り込んでしまった。

真夏Niプリン★6章「真夏にプリン」①

2007-06-16 06:18:26 | 連載小説
6章「真夏にプリン」

(1)「星に近づく」

僕らは再び車に乗り込み小高い丘というか山道を登っていた。

道が悪くて車の揺れが激しくて普段なら気分が悪くなるところだが、
そこまで頭も体もまわらない。

ただそんな状況でも暑さだけは感じる。

旅館の辺りは海も近いので風があって涼しかったのだが、
山道を登るに連れて風もなくなり蒸し暑くなってくる。

僕らは間違えなく『彼女』に近づいている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

旅館のおばちゃんの話では『彼女』はおとついの昼過ぎに旅館にチェックインしている。
(チェックインといえる程立派な旅館じゃないんだけども)

『彼女』はおばちゃんに夜景が見えて静かなところはないのかと聞き、
おばちゃんは所有する小屋(何年か前までそこに住んでいたようだ)があると教えている。
そして、そこで2泊させてくれないかとおばちゃんに頼んでいる。

この辺が唐突な感じでわかりにくかった。

なぜ、おばちゃんは見ず知らずの人に小屋を貸したのか?

『彼女』はギターを持ってきていて他の客に迷惑になるとか、
誰もいないところで一人でのんびりしたいとか適当(かどうかはわからないけど)な理由をつけて、
おばちゃんに頼み込んだらしい。

おばちゃんとしても料金は貰えるわけだし、
問題を起こすような人にも見えなかったからすんなりと了解した。

『彼女』はタクシーで小屋へ向かった。

だが、約束の日=今日になっても『彼女』が来ないので心配していた。

そこに『彼女』を探しにやってきた友人、つまり僕らが現れた。

おばちゃんも警察沙汰にはしたくないし運転免許も持っていない。

僕らは合い鍵を受け取りその小屋へ向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

外灯もない田舎道なので、あまりスピードも出せない。

空にはたくさんの星が見える。

山道を登っていくと星に近づいているような気になるが、
星には決して近づけずに一定の距離を保っている。

でも、僕らは『彼女』には近づいているはずだ。

「もう少しだね」

「あぁ。もう少しだ」

真夏Niプリン★5章「夏休み」③

2007-06-15 04:20:08 | 連載小説
5章「夏休み」

(3)「旅館」

僕らは端っこの方にちょこんと建っている旅館を見つけた。
つげ義春の漫画に出てきそうな昭和の香りがぷんぷんのおんぼろ旅館。

洗濯物がこの時間になっても干されたままになっていて風になびいている。

僕らは車から降りて横開きのドアを開けた。

ドアは立て付けが悪いようで開けたはよいが、
なかなか閉まらずキノシタは閉めるのに苦戦している。

「は~い」

ガタガタとドアをいじっている間に旅館のおばちゃんというかおばぁちゃんが出てきた。

「すみません、予約とかしてなかったんですけど部屋は空いてますか?」
キノシタがドアを直しているので僕がおばちゃんに聞くことになった。

「1泊でしょ?空いてるよ。」

「1泊いくらですか?」

「食事の用意ができないから一人3000円でいいよ」

「それじゃあ、お願いします」

バタン、交渉がまとまったとこでキノシタの直していたドアもようやく閉まった。

「ところでねぇ、あんたらより4、5歳くらい年上の女の子を見なかったかい?」

僕とキノシタは目を合わせた。

「もしかして、その女の人『ゴトウ』っていいます?」

「あら、知り合いなのかい?」

再びキノシタと目を合わせて客室にも入らずに、
僕らはすごい勢いでおばちゃんに『彼女』についての話を聞き出した。

風が強くなってきて表の洗濯物がバタバタと音をたてている。

真夏Niプリン★5章「夏休み」②

2007-06-14 04:48:27 | 連載小説
5章「夏休み」

(2)「捜索」

どうにかなるだろうと安易に思っていたが「捜索」は容易ではなかった。

頼み込んでも教えてくれなかったのが2件(僕らが怪しまれたのか?)、
残りの3件には『彼女』は宿泊していなかった。

その足で炎天下の中、近くのホテル・旅館を当たってみたけどみつからなかった。
小説や漫画みたいに上手くはいかない。

僕らは疲れて浜辺に車を停めて沈む太陽を見ている。
片手には今にも溶けそうなアイスクリーム。

「なかなか上手いこといかないね」
キノシタは運転の疲れもあるので僕以上に疲れている様子だ。

「そうだなぁ・・・・・」

『彼女』もここでこんな夕焼けを見たのかな?

「どうしよっか?」キノシタはハンドルを握ったまま僕に尋ねる。

「どっか安そうな旅館でも探して1泊しようか?」
助手席乗っているだけとはいえ、僕も『彼女』の捜索に疲れた。

「そうだね、そうしよう。あんまりお金持ってきてないから安いとこ探そうか」
キノシタはミニクーパーのエンジンをかけた。

ゆっくりと海岸沿いの道を走る。
なんだか世界の果てに来た気分で、今にも僕らは車ごと消えてしまいそうな気がした。

僕は『彼女』がキノシタ・男・女に分けて送った歌詞を繋げたものを見た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[夏のぬけがら]

焼けた砂浜を1人歩いてる
焼けた砂浜が何度も尋ねてる

燃えているのは太陽なのかな?
終わらない夏はどこにあるのか?

波はここまでは届かない

君はどこにいるのかワカラナイ
僕はどこにいるのかワカラナイ

景色は後ろに流れているのかな?
僕だけ前に流されているのかな?

暑さのせいで眠れない

いつだってここにいたいから
いつだって何処にも行かないよ

君を待っているから
僕は待っているから

それだけは暑さのせいじゃないんだよ

君を待っているから
僕は待っているから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕らはここにいて君を迎えに来たんだよ。

真夏Niプリン★5章「夏休み」①

2007-06-14 04:48:10 | 連載小説
5章「夏休み」

(1)「MINI」

僕はエアコンの付いていない水色のミニクーパーの助手席に乗って200㎞くらい先の海に行こうとしている。
運転しているのはこの車の持ち主であるキノシタ。

車に関してまったく知識がないキノシタは見た目だけでこの車を買ってしまったらしい。

走っているときは窓を開けているので暑さも気にならないが、
信号待ちや渋滞のノロノロ運転の時なんかは暑くて死にそうになる。

僕の夏休みの2日目、とにかく暑い。
これじゃエアコン無しの練習スタジオと変わらない。

暑さのせいで、あと何百㎞もこの道が続くような錯覚に陥ってしまう。

キノシタは信号が青に変わると同時にアクセルを強く踏んだ。
スポーツカーのような加速はないが風が入ってきて気持ちが良い。

壊れかけのカーステレオからはTHE JAMの1stアルバムが流れている。

あとどれくらいで着くのだろう?

昨日は飲み過ぎてキノシタの家に泊めてもらった。

新しい友達のような気もするし、前から知っていたのでずっと昔からの親友のようにも感じる。

こういうのも悪くないかな。

もしかすると賭に負けて良かったのかなぁ・・・・・

でも、この狭い車に男2人ってのはどうにもいただけない。

「なにニヤニヤしてんの?」

「してないよ!」

「もう少しで着くよ」

「そっか」

今日の朝、ネットで宿泊先を検索して5つにターゲットを絞った。
20くらいある宿泊先(実際はもっとあるんだろうけど)から、
料金・住所・『彼女』が選びそうなとこ等、どれも確実なものではないけども、
ターゲットを絞った方が効率が良い。

あとは宿泊先に行って訪ねても個人情報が云々とかってうるさいご時世に、
すんなりと宿泊者を教えてくれるかどうかが不安だ。

まぁ、どうにかなるだろう。

真夏Niプリン★第4章「悪魔を哀れむ歌」③

2007-06-13 04:59:28 | 連載小説
第4章「悪魔を哀れむ歌」

(3)「賭~悪魔を哀れむ歌」

「ホンマくんはどう思う?」

キノシタが沈黙を破って口を開いた。
男も視線を僕に向ける。

「俺は『彼女』は誰かが来るのを待っているんだと思う」

男は視線を戻して再び食器を洗い始めた。
キノシタは小さく頷いて最後の1本のラッキーストライクに火をつけた。

「僕もそう思う」
煙を上に吐いてキノシタは続ける。
「明日、海に一緒に行かないかい?」

ここから一番近い海までは200㎞くらい。
行けない距離ではないがそこまでする必要はあるのか?

ないに決まっている。

行ったとしても宿泊するホテル・旅館だってたくさんあるんだから、
『彼女』を見つけることができるとは思えない。

よって時間と労力の無駄だ。

「それは断るよ、キノシタ。
『彼女』が待っているのは僕らとか限らないんだよ。
 さっきの女の人かもしれないしナオキさんかもしれない」

男は蛇口を閉めて僕らに小さな声で言った。
「おまえらが迎えに行くのが一番いいよ」

みんな勝手なことばかり言ってる。
「なんでですか?」
僕は酔っているせいで男をきつく睨んでそう言い返した。

「理由なんてねぇよ」

男も僕を睨みながら強い口調で言う。

「ホンマくん、『彼女』の歌詞に曲をつけて演奏する権利が僕らにはあるんだよ」

ほんとにこいつらは・・・・・

「だから何なんだよ。『彼女』が帰ってきてからでもそれはできるじゃないか。
 そんなのは迎えに行く理由には残念だけどならないね」

それから話は平行線を辿った。

話がいつまでもまとまらないので面倒になり僕は単純なルールの賭を提案した。

①次に流れるストーンズの曲をお互いに予想する。
②キノシタの予想が5回以内に的中→海へ行く
③僕の予想が5回以内に的中・2人とも5回以内に当たらない→海には行かない
※店内で流れているストーンズの曲は男のパソコンのi-tunesでランダム再生されている
※男はパソコンを操作できないように、キノシタに曲を教えないようにカウンターから離れること

これだけでも僕に有利なのに決定的に僕に有利な条件がまだある。

キノシタはストーンズに詳しくないのに対して僕はかなり詳しいのだ。

よって僕がストーンズのメジャーな曲を先に言ってしまえば、
キノシタは曲を予想することさえ出来ない。

90%以上僕の勝利だ。

1回目の予想
「サティスファクション 」・・・僕
「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」・・・キノシタ(予想通りメジャーな曲しか知らないな)

流れたのは・・・・・マーシー・マーシー(1965)だった。

2回目の予想
「アンジー」・・・僕
「ライク・ア・ローリング・ストーン」・・・キノシタ(ストーンズの曲だと思ってるのか)

流れたのは・・・・・ヒッチ・ハイク (1965)だった。

ここで僕はあることに気付いた。
ランダムとはいえ、この流れは1965年にリリースされたアウト・オブ・アワ・ヘッズの曲順だ。

どうせこの賭は僕の勝ちだ。

ちょっと遊んでみるか。

3回目の予想
「ラスト・タイム」・・・僕(アウト・オブ・アワ・ヘッズの3曲目)
「悪魔を哀れむ歌」・・・キノシタ(もうこれしか知らないんじゃないだろうか?)

流れたのは・・・・・悪魔を哀れむ歌。
キノシタの予想が的中した。

男とキノシタがハイタッチしている。

いつのまにか夜も更けてエアコンの設定温度を上げないと肌寒くなってきた。

僕は盛り上がっているキノシタと男を横目で見ながらカウンターのリモコンを手に取った。

「明日も暑くなりそうだなぁ・・・」

真夏Niプリン★第4章「悪魔を哀れむ歌」②

2007-06-12 04:47:30 | 連載小説
4章「悪魔を哀れむ歌」

(2)「女の携帯電話」

男は女の手から携帯電話を奪うようにとって、
画面に被さる明らかに携帯電話の2~3倍くらいの重さになってそうなストラップをよけて画面を見た。

そして、無言のまま僕らに女の携帯電話を渡した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[夏のぬけがら]

いつだってここにいたいから
いつだって何処にも行かないよ

君を待っているから
僕は待っているから

それだけは暑さのせいじゃないんだよ

君を待っているから
僕は待っているから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

受信時間は男よりもあとだ。
ということはキノシタ→男、女の順番だ。

そして、女も男同様にメールの前に電話があったと言っている。

「良い歌詞が出来たからメールで3つに分けて送ってて最後の1つを私に送るって言ってたよ」
女は僕らほど心配している様子は見受けられない。

「他に何か変わったことはなかったのか?」
男はカウンターから身を乗り出して女に尋ねる。

「海に来てるって言ってたよ、どこに泊まってるって言ってたっけなぁ?
 あとは何だろう・・・・・元気がなかったなぁ」

女からの有力な情報はそれだけだった。

男に借りていたと思われる映画のDVDを返してカクテルを1杯飲んで帰って行った。

女は僕らに帰り際こういって帰った、
「そんなに心配しなくても大丈夫よ、すぐに帰ってくるから」

再び店内は僕・キノシタ・男の3人に戻った。

男は女の言葉で安心した様子もなく暗い顔をして食器を洗っているし、
僕らも再び黙って生ビールを飲み始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[夏のぬけがら]

焼けた砂浜を1人歩いてる
焼けた砂浜が何度も尋ねてる

燃えているのは太陽なのかな?
終わらない夏はどこにあるのか?

波はここまでは届かない

君はどこにいるのかワカラナイ
僕はどこにいるのかワカラナイ

景色は後ろに流れているのかな?
僕だけ前に流されているのかな?

暑さのせいで眠れない

いつだってここにいたいから
いつだって何処にも行かないよ

君を待っているから
僕は待っているから

それだけは暑さのせいじゃないんだよ

君を待っているから
僕は待っているから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

誰かが迎えに来るのを待っているのかな?
それとも待っていたのかな?

真夏Niプリン★第4章「悪魔を哀れむ歌」①

2007-06-12 04:38:43 | 連載小説
4章「悪魔を哀れむ歌」

(1)「学校指定カバン」

僕もキノシタも無言のまま3杯目の生ビールを飲み始めた。
そんなに酒は強い方じゃないが暑くて生ビールが美味しく感じてピッチが早くなる。

僕の隣でキノシタはラッキーストライクをくわえながら携帯をいじっている。
キノシタもそんなにお酒は強い方じゃないようで頬が赤らんでいる。

よくよく考えると、このキノシタって奴も良い奴だ。

たいして親しくもない人間を心配して行動して、
終いにはこのよくわかんないバーで僕と一緒に酒を飲んでいる。

まるで青春映画みたいだ。
酔ってきたせいかそれも悪くないかも。

でもBGMはストーンズじゃない方が合うなぁ。

ぼんやりとそんなことを考えていると店の入口の扉が開いて、
僕とキノシタは同時にゆっくりと視線を入口に向けた。

入ってきたのは『彼女』や男と同じ歳くらいの女だった。

ふわふわのスカートでCanCamふうとでも例えればよいのか、
どこにでもいそうな感じの女の人。

バッグはお決まりのヴィトン。
(いつも思うのだがこれだけ氾濫するとヴィトンって学校指定カバンにしか見えない)

僕の席の隣にその学校指定カバンを置いて、
隣の隣のイスに座り親しげにカウンターの男と話始めた。

こういう女って何か苦手なんだよなぁなんて思っていると、
隣のキノシタも不機嫌そうな顔をしてラッキーストライクに火をつけた。

「ねぇ、ナオキのとこにも届いた?」

女は甘えた声で男に話しかける。

「なにが?」

男の無愛想な返事からすると男もあまりこの女の人を良く思っていないかも知れない。
もちろん僕の勝手な想像なんだけど。

「ゴトウちゃんからのメール!」

僕もキノシタも男もその一言で一斉に女に視線を向けた。

「な、なに?」

スピーカーから流れるストーンズの曲が遠くに感じた。

真夏Niプリン★第3章「第2のメール」③

2007-06-11 06:37:24 | 連載小説
3章「第2のメール」

(3)「ROCKBAR」

僕とキノシタはとあるロックバーのカウンターで肩を並べて生ビールを飲んでいて、
カウンター越しに『彼女』のアパートで会った男が生ビールを注いでいる。

このバーにはエアコンは1台しかない。
店内が狭いので普段は十分事足りるのだろうが、
異常気象なのか今日の暑さではもう1台あっても良いくらいだ。

店内にはストーンズの曲ばかりがランダムに大音量で流れている。

僕の予想は的中していて『彼女』は男にもメールを送っていた。

そのメールはこうだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[夏のぬけがら]

君はどこにいるのかワカラナイ
僕はどこにいるのかワカラナイ

景色は後ろに流れているのかな?
僕だけ前に流されているのかな?

暑さのせいで眠れない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

メールの受信時間を見るとキノシタの後に送ったことがわかる。

男は『彼女』のバイト仲間で『彼女』はこのバーで週3日働いていた。

男の話だと『彼女』は2ヶ月前からここで働いていて、
昨夜『彼女』から今週はバイトを休みたいから代わってくれという電話があった。
(メールはその後に送られてきたらしい)

休みたいというより働く日にちを増やしたいと言っていたのと、
電話越しの様子がおかしかったので(やはり強い風の音は男も聞いていた)男も不審に思った。
そして、電話のあとのあのメールである。

さらに男もバンドを演っていて『彼女』に歌詞・曲を聴かせてくれと頼んでいたが、
なぜかずっと頑なに断られていた。

その理由を『彼女』に聞いたところ、
「ほんとに納得のいくモノが出来たら聴かせる。
 でも、きっと納得のいくモノが出来た瞬間に全てが終わる気がする」と言われた事があった。

不安に思って『彼女』に連絡をとろうにも連絡がとれなかった。
それで『彼女』の部屋を訪ねたそうだ。

これは僕の予想だがこの男は『彼女』に対して恋愛感情を持っているのだと思う・・・・・
(それはさすがに聞けないけど)

僕とキノシタは男の長い話を聞いた後、
男と『彼女』のバイト先に行くことを決めた。

それは2人とも『彼女』のことが気になるというよりも、
涼しい所で座って生ビールを飲みたいという気持ちからだった。
ほんとは『彼女』のことから一旦離れて普通の居酒屋ででも飲みたかったのだが、
男の誘いがあったのとバーが意外とここから近かったから。

そして、今、僕はキノシタと『彼女』がバイトしていたロックバーのカウンターで肩を並べて飲んでいる。

『彼女』が男に言っていた納得のいくモノ。
でも、それが出来た瞬間に全てが終わる。

『彼女』は僕ら以上に真剣にバンドをやっていたんだ。
僕らは『彼女』の納得のいくモノに何の貢献もしていない。

僕らも薄々わかっていたことだが、やっぱり気分の良いことではない。
『彼女』の為とかじゃなくて単純に自分たちがはっきりと否定されているようで悔しい。

『彼女』は男に歌詞も曲も聴かせなかった。
聴かせるだけの価値もなかったんだ。

そんな『彼女』がキノシタと男に送った歌詞『夏のぬけがら』。

この歌詞は『彼女』にとって納得のいくモノになったのだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[夏のぬけがら]

焼けた砂浜を1人歩いてる
焼けた砂浜が何度も尋ねてる

燃えているのは太陽なのかな?
終わらない夏はどこにあるのか?

波はここまでは届かない

君はどこにいるのかワカラナイ
僕はどこにいるのかワカラナイ

景色は後ろに流れているのかな?
僕だけ前に流されているのかな?

暑さのせいで眠れない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕とキノシタは乾杯と言ったきり無言で生ビールを競うように飲んでいて、
店内にはストーンズのLadyJaneが大きな音量で響いている。

真夏Niプリン★第3章「第2のメール」②

2007-06-10 17:26:06 | 連載小説
3章「第2のメール」

(2)「第2のメール」

『彼女』の部屋のインターホンを押す。
さっき下の階で押したときよりも音量は小さいものの、
やはり普通のインターホンよりは音量が大きい気がする。

<ピンポーン>

出ないし、部屋にいる様子もない。

<ピンポーン、ピンポーン>

続けて僕も2回インターホンを押すが出ない。

<ドンドン>

どうせ出てこないし、いないとわかっているだろうにキノシタがドアをノックする。

「いないね」
キノシタが開かれないドアを見ながらつぶやいた。

「うん、もういいじゃない。意外と週末の練習にふらっと現れたりするんだよ。
 それまで何回か携帯にかけてみれば?」

僕は今日一日の疲れが一気にきて早く家に帰りたかった。
早くシャワーを浴びたいし早くエアコンの効いている冷たい部屋に帰りたい。

「そうだね。もうどうすることもできないよね」

キノシタは力なくそう言って階段へとゆっくり歩き出したので、
僕も後ろに続いて歩き出した。

すると、階段を一人の男が駆け足で上がってきた。

男は20代後半だろうか髪が長く、
黒い細身のノースリーブにスキニーデニム、
レザーのブレスレットとドクロのネックレスと使い込んだウォレットチェーン。
いかにもロック好きって感じの男だ。

細い階段で交差することが出来ないので僕らは男が上がるのを待っている。
(といっても駆け足で上がってきているのでたいして待ってはいないのだが)

男は軽く僕らに会釈をして、階段を上がってすぐの『彼女』の部屋のインターホンを押した。
1度鳴らして出てこないとわかるとインターホンを連打してドアを何度もノックしている。

顔の表情は長い髪の毛ではっきりとこっちからは見えないが、
なんとなく慌てているようにも思える。

僕は階段を降りたかったがキノシタは男を黙って見ている、
狭い階段なのでキノシタが降りなければ僕も降りられない。

僕はキノシタを軽く押したがキノシタは1歩も動こうとしない上に、
「ゴトウさんの知り合いですか?」と男に尋ねてしまった。

もういいじゃないか。

僕は言葉に出したかったが疲れて言葉にならなかった。

男がこっちを向く。
想像通り慌てた様子で少し苛ついているのがわかる。

「あぁ。おまえらも?ゴトウの知り合いか?」

「はい、ゴトウさんに連絡がつかなくて・・・・・・」

「そっか・・・・・」

男はポケットに両手を突っ込んだまま黙っている。

「あのー、そっちも連絡つかないんですか?」

キノシタが尋ねても男は頷くだけ黙っている。

この男は『彼女』の恋人?
それとも友達?元彼?同じ歳くらいに見えるけど兄弟?

僕は疲れた頭でぐるぐると想像を巡らせていた・・・・・もしかして!

一瞬、言葉にすべきか迷ったが思いついてしまったことに歯止めが利かない、
これも暑さのせいなのだろうか。

夏の暑さは人を微妙に狂わせる。

だとするなら、超常現象の1つと言っても過言ではないのかも知れない。

僕は口を開いた。

「あのー、もしかして昨日の夜中に『彼女』からメールが来ませんでした?」

僕の想像は的中して、男は大きく目を見開いて話し出した。

もう少しで陽が落ちて少しは涼しくなりそうだ。