MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2312 田舎暮らしは本当にエコか?

2022年12月11日 | 環境

 野生動物と人間の住処の境界線にあるのが、日本の原風景の一つである里山というもの。古来、日本人はそこから生活のために必要な薪や炭、山菜など季節の恵みを受けながら、人の暮らしの営みを通して里山を維持してきたとされています。

 里山のエコシステムを活かした自然の一部としての生活スタイルは、まさにサスティナビリティを地で行くものです。江戸時代から変わらない、自然と共生する日本の循環型社会の象徴と言えるかもしれません。

 現在でも、茅葺屋根の家や、メダカやドジョウがいる池、そうした昔ながらの田舎の風景にあこがれ、都会と田舎との二重生活などを始める都会人も多いようです。

 金曜日の夜に車に荷物を積み込み、高速道路を使って週末を田舎で過ごす。季節を感じながら庭先の畑で野菜などを育て、巻き割りや草取りに汗を流すのは(きっと)気持ちの良いものでしょう。

 しかし、ちょっと待って。そうした田舎で暮らす毎日は、本当にサスティナブルで環境に優しいものなのか。9月17日の総合経済誌「週刊東洋経済」のコラム「少数意見」に、『カーボンニュートラルの本気度を伺う』と題する一文が掲載されていたので、参考までに小サイトに残しておきたいと思います。

 環境省によると、地方別の世帯当たりの二酸化炭素排出量(2020年)は、東名阪や九州が2トン台であるのに対し、北海道、東北、北陸は4トン台、中国、四国、沖縄でも3トン台に及んでいると筆者はこのコラムで指摘しています。

 戸建て比率の高さや暖房の必要性などがこうした違いを生んでいる。世帯人数の差を考慮した1人当たりで比較しても、地方別の傾向は変わらないと筆者はしています。

 地方の暮らしといえば環境に優しいイメージがあるが、ことCO2で見る限りはそれが幻想であることがわかる。しかも、この数字には自家用車からのCO2排出量が含まれていないということです。

 自動車1台当たりの年間CO2排出量は(平均でも)2.3トンに及び、1世帯の排出量に匹敵する。一方、人口比での自動車保有台数は地方が多く走行距離も長いと筆者は言います。自家用車なしでは生活が成立しないため、軽自動車を含めて1人1台保有する世帯も珍しくないというのが筆者の指摘するところです。

 データからもはっきりしているように、地方の(住民一人当たりの)CO2排出量は都市部よりも明らかに多い。カーボンニュートラルを目指すならば、政策的に東名阪への人口集中を進めるべきだろうと筆者は話しています。

 公共交通機関が充実した都心部に住めば、CO2排出量の多い自動車の使用は確実に減らせる。生活、物流の効率も良く、上下水道や廃棄物処理などのインフラもシステム化されていて、都会暮らしの(住民一人当たりの)エネルギー効率、環境負荷は今や最小限にとどまっているということです。

 さらに言えば、そもそも自動車は、電気自動車であっても環境負荷は極めて重い。CO2を減らすには、真っ先に自動車の生産・販売・利用を減らす政策を打つ必要があると筆者はしています。

 自動車に限らず、経済活動全般を減らせば、CO2排出量は確実に減るのは分かりきったこと。しかし、だからといって、現在の地方での暮らしから(例えば)自動車を取り上げることはできないだろうというのが筆者の認識です。それでは、何を犠牲にして抜本的なCO2削減を実現するつもりなのか。

 オイルショックで環境問題に焦点が当たった1970年代は、深夜のテレビ放送は停止、ネオンも消えた。当時は、官民挙げてまじめに環境問題と向き合ったとコラムは指摘しています。

 今はどうだろう。カーボンニュートラルが重要といいながら、足元の電力危機では古い火力発電所を再稼働する一方、イルミネーションは煌々と灯ったまま。カーボンニュートラル宣言を打ち出した大企業で社用車をやめた会社はどれだけあるのか。空前のゴルフブームで週末に自家用車でゴルフに行く役員も多いだろうということです。

 さて、純粋にエコロジーという視点に立てば、隣の家まで何百メートルもあるような地方で暮らすよりも都会のマンション暮らしの方が環境負荷は小さい。庭先で焚火をしたり大型犬を飼ったりする生活よりも、我慢して満員電車に揺られる生活の方がよほど効率的なエネルギーの使い方だということでしょう。

 思えば世界の多くのCEOが、ダボス会議にプライベートジェットで駆けつけて気候変動を議論している。もしも本気でカーボンニュートラルの実現を考えるのであれば、CO2削減策がレジ袋の有料化や紙製ストローの利用促進では「本気度」を疑われても仕方がないとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。



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