MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2348 「ゆるい職場」の活かし方

2023年01月25日 | 環境

 先ごろリクルートワークス研究所が発表した調査(「大手企業における若手育成状況調査報告書」2022.7.7)によると、大手企業の新入社員のうち実に36.4%が「職場がゆるい」と感じているということです。

 「職場がゆるい」と感じる若手が増えている背景には、安倍政権が唱えた「働き方改革」の掛け声のもとに、ここ数年で労働に関する法整備が一気に進んだことがあるのでしょう。

 2013年に「ブラック企業」という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされ、2015年には「若者雇用促進法」が施行。これを機に、企業には勤続年数や残業時間、有給取得率などの開示が義務付けられ、2018年の「働き方改革関連法」では時間外労働に上限が設けられました。さらに、2020年には大企業にパワーハラスメントの防止措置が義務付けられ、2022年4月からは中小企業にも適用されています。

 サラリーマンにとって、こうして職場環境が改善されたこと自体は間違いなく良いことなのでしょう。しかし、会社に入ったばかりの新入社員の実に3人に1人が現在の状態を「ゆるい」と感じているのであれば、「何かが間違っている」可能性も視野に入ってくる。新入社員の面倒を見ている管理職の皆さんは、そうした視点に立って職場の状況(中でも若手社員への負荷の状況)をもう一度確認してみる必要があるかもしれません。

 先の調査によれば、「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」という項目に対して、「強くそう思う」「そう思う」と回答した人の合計は、「職場がゆるい」と感じている人ほど高い(62.6%)という結果も出ているとのこと。「ゆるい」というのはあくまで表現の問題で、もしかしたらその本音は「やる気がない」「活気がない」ことの裏返しなのかもしれません。

 また、「職場がゆるい」と答えた人のクロス集計では、「すぐにでも退職したい」が16.0%、「2~3年であれば働き続けたい」に至っては41.2%に達しているとされており、そうした「ゆるい」企業は、職場の雰囲気を敏感に感じ取った新入社員に「見捨てられる状況」にもあるようです。

 もちろん、だからと言って新入社員を(もっと)厳しく育てればそれでいいというものでもないでしょう。随分と前の話になりますが、私自身、新卒で入った最初の職場は「言われたことだけをやっていればよい」という雰囲気でかなりの物足りなさを感じた一方で、異動した次の職場では残業の山を築かされるばかりで雰囲気が悪く、本気で転職を考えた記憶があります。

 「働き方改革」が実現しつつある今、なぜこうした状況が(広く)生まれつつあるのか。9月29日の就職情報サイト「リクナビNEXTジャーナル」に、『「職場がゆるい」と感じたらどうする?若手社員はキャリアをどう考えればいい?』と題する記事が掲載されていたので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。

 「ゆるい職場」は、企業におけるコンプライアンス対応やコミュニケーションスタイルの変化によって日本の職場に現れた新しい形態であり、(もちろん)一律に善悪で結論を付けるべきではないと記事はその冒頭に記しています。

 ただ、新入社員が「社会に出れば得られる(はず)」と考えていたものが、当たり前ではなくなりつつある現実があるのだろう。そのような状況に直面する当事者の若者たちが感じる「焦り」や「不安」を、どこかで受け止める必要があるというのが記事の指摘するところです。

 おそらく、ここで求められている発想は、「新入社員は会社が育てるものだ」「会社が育ててくれるものだ」といった“会社主体”の若手育成観からの脱却ではないかと記事は話しています。

 若手にかけられる負荷に限界がある中で、職場にある機会だけでは人材を育て切ることができない。一方で、若手自身が理想とするキャリアパスにも足りないというならば、本人があらゆる機会から「主体的」に学び取ることができるような方法、育成観に転じていく必要があるというのが記事の提案するところです。

 具体的には、例えば(1)職場にある機会を最大限活用しつつ、(2)自分で見つけ出した職場内外の成長の機会を組み込んで、(3)自ら設計してキャリアを構築していく…ことなど。職場を越える学びや、当事者による自主的・意識的な学びの機会を用意していってはどうかということです。

 こういう環境を与えられた場合、「ゆるい職場」は当事者の若者たちが自律的なアクションを行い、またそれを促すための最適な場となる可能性もあると記事はしています。確かに、こうした「ゆるい職場環境」の中で自ら学び育った令和の人材は、(きっと)ハードな環境を耐え抜くことで鍛えられた昭和型の人材とは異なる能力を身に着けていることでしょう。

 職場の様相を過去に戻すことは法的にも社会的にも難しいし、「ゆるい」と言うのであれば厳しくすればよいというものでもない。企業も若者当事者も直面したことのない「ゆるい職場」で、利益を生む人材をどう育てるのか。経験のない模索が始まろうとしていると結ぶ記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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