MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2180 エネルギー価格高騰への対応

2022年06月13日 | 環境

 政府は今年1月から石油元売り事業者などに補助金を支給し、給油所への卸値を抑え販売価格の上昇に歯止めをかけてきました。経済産業省は6月13日時点のガソリン価格は、この補助がなければ210.6円に達すると見込んでおり、抑制目標の168円との差は42.6円に及びます。

 政府はさらに6月9日から、これまで補助上限としてきた+35円にそれを超えた分の半分の補助額を上乗せするとしていますが、これ以上の原油価格の上昇が続けば補助金の価格抑制効果が薄れることは必至です。

 報道などによれば、国際的な価格指標であるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は足元で1バレル120ドルに迫っており、アジア市場などでも、上海などの都市封鎖の解除に伴う需要拡大を見越して中東産ドバイ原油のスポット価格が上昇しているとされています。

 政府は先ごろ認められた補正予算で、ガソリン価格を抑えるための補助金1兆1700億円余りの投入を決めていて、さらに予備費による補填などを加え1兆5000億円程度の歳出増を見込んでいます。これらの財源はすべて赤字国債で賄われることとされており、将来的な見通しが立たない中での政策決定に批判の声も上がっています。

 この先さらに原油価格の高騰が続けば、こうした形での公的資金の投入に財政的な限界が見えてくるのは火を見るよりも明らかです。もとより、元売り事業者への補助金の支給に関しては、「なぜ原油価格の値上がりで利益が見込める企業に補助金を出すのか」「どうしてガソリンだけなのか」といった反発があるのは事実です。

 月々の給料から税金を天引きされる(サラリーマン)納税者の感覚で見れば、現在の状態が「普通」であるとはとても思えません。赤字財政の下、こうした天文学的な金額の公金が一部の企業にだらだらと流れ出ている現状に、不安を覚える人が多いのも致し方がないことでしょう。

 一方、燃料価格の高騰にともなう一時的な措置が、長期にわたる歪みを市場に与えようとしている状況は、日本ばかりのことではないようです。ガソリンや電気代を抑制するための補助金が世界中で常態化しており、年間で100兆円を突破する勢いだと、6月12日の日本経済新聞が報じています。(「燃料補助金 世界で100兆円」2022.6.12)

 ガソリン価格の値上げなどの打撃から貧困層を救おうと、価格に上限を設けるための補助金制度。新型コロナ危機とそれに続くロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料価格の高騰で、今、その規模が(世界中で)一気に膨らんでいると記事は指摘しています。

 2021年時点でおよそ5000億ドル(67兆円)と見られていた世界の燃料補助が、翌2022年には66%増の8300億ドルに達すると推計されている。スウェーデンが(新たに)ガソリンやディーゼル減税を模索しているほか、電気料金の上昇に対し、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどのヨーロッパ諸国では、歩調を合わせるように価格の上限設定を伴う補助制度を導入したということです。

 一方、燃料高は各国の国民に「生活費の危機」をもたらしたが、「ほとんどの補助金は貧困削減の目標に繋がっていない」という指摘もあるようです。パキスタンのシンクタンク「持続的発展政策研究所」は、途上国では所得の下位40%が受けるガソリン補助金の利益はわずかに7.4%に過ぎず、(所得の)上位40%に当たる人々が83.2%の利益を手にしているとしています。

 記事によれば、こうした状況に対し多くのエコノミストは、現金支給など、燃料価格とは独立した支援によって弱者を助ける方が効果的で公平と指摘しているということです。

 途上国の貧しい人々の多くは自動車を持たず、電力へのアクセスも限られている。ここ日本においても、ガソリン価格の上昇が直接家計に(それなりの)影響を及ぼすのは、自動車を日常の足としているような一部の世帯に限られることでしょう。

 そして、(この手法の)最大の問題点は、補助金が化石燃料の本来のコストを見えにくくすることだというのが、記事が最後に指摘するところです。(市場の値付けに比べ)安すぎる電力料金が省エネ努力の邪魔をする。二酸化炭素の排出量削減努力を市場価格に還元する「カーボンプライシング」にも逆行するということです。

 さらに言えば、ロシアのウクライナ侵攻を支えているのが、ガスや石油の収入であることは間違いない。EUや米国が(痛みは承知で)ロシア産原油を買わないと決めたのは将来のエネルギー安全保障を優先した結果だが、補助金で再生可能エネルギーへの移行が遅れれば、脱ロシア依存も妨げられかねないと記事は言います。

 環境や経済のために社会的な保護を犠牲にはできないが、短期的な経済の利益のために、将来の環境や安全を犠牲にすることもできない。一時的な需給ギャップに恒常的に介入し続けても、「弱者保護」という目的をかなえられないばかりか、「神の手」と称される市場の機能すら失うことにもなりかねないということでしょう。

 思えば、「ロシアへの経済制裁」などの理由によって価格が上がったとしても、世界中で消費される石油の量が(節約されることもなく)変わらなければ、値段が上がった分だけ儲かっている人が(どこかに)いるのは子供でも判ります。

 足りない原油は引っ張りだこで、制裁で出荷できなくなったロシア産の分まで売れていく。そのうえ単価はこれまでの1.5倍以上となれば、声には出さずともにんまりとしている人がいるのは想像に難くありません。

 そのうえ、公的資金が消費者単価を引き下げてくれているので、元値がいくら高くなっても出荷量への影響は大きくない。結果、各国はそれぞれの国民から集めた税金を、ただ彼らの利益として積み上げているという残念な結果も見えてきます。

 産油国、メジャーと呼ばれるような元売り業者、総合商社や国内石油産業,、原油先物への投機筋など、関連事業者は多いはず。一番儲けているのが誰とは言いませんが、財政赤字を垂れ流している財政状況を思えば、このままでよいとはとても思えません。政府による長期にわたる市場への介入は、かえって日本の産業を弱らせてしまう結果をもたらす可能性すらあるでしょう。

  緊急避難、競争力の確保といった視点は分かりますが、本当のところ、日本のエネルギー政策を担う経済産業省はこの補助金で何から誰を守ろうとしているのか。原油価格高騰の長期化が見込まれる現在、市場の規律を保つために何ができるかを(改めて)真剣に考えるべき時が来ているのではないかと改めて考える所以です。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿