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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2159 「ゼロコロナ」は誰のため?

2022年05月18日 | 国際・政治

 5月10日、トヨタ自動車は、新型コロナウイルス流行による中国・上海のロックダウン(都市封鎖)に伴う部品調達難で、同16~21日にわたり日本国内の8工場、14生産ラインの稼働を停止すると発表しました。トヨタはこの影響で約3万台の生産が滞るとしており、75万台としていた 5月の世界生産計画が70万台程度に減る見込みだということです。

 中国では3月以降、新型コロナへの感染が急速に拡大した(上海をはじめとした)各都市で厳しい外出制限を行っています。「ゼロコロナ」と呼ばれる政府の威信をかけた対応により、2600万人の人口を抱える上海ばかりでなく、人口約1700万の広東省・深センや人口約1300万の陝西省・西安、人口約1000万の黒竜江省・ハルビンなど、ロックアウトされた都市は20を超えるとされています。

 コロナは完全に封じ込める…中国のこうした対応に、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5月10日の記者会見で、「ウイルスの動きを考慮すれば、ゼロコロナ政策は持続可能ではないと考える」と指摘。「今は他に良い政策もある。他の戦略に移行することが重要だ」と強調したと報じられています。 

 これに対して中国政府はさっそく反応。中国外務省の趙立堅報道官は同11日の記者会見で、「中国政府の感染対策は歴史の検証にも耐えうるものであり、科学的かつ効果的で、中国が世界で最も感染対策が成功している国の1つであることは、国際社会の誰もが認める事実だ」と述べ、「無責任な言論を発信しないよう望む」と同国の政策を否定する言動をけん制したと伝えられています。

 共産党の威信にかけて、中国人民にゼロコロナの徹底を求める中国の指導者たち。感染のリスクとコストの関係で言えば、その姿は(我々の目には)もはや「意地になっている」ようにしか映りません。なぜ中国政府はそこまでして、「ゼロコロナ」に異様なまでのこだわりを見せるのか。

 5月10日のYahoo newsにジャーナリストの宮崎紀秀氏が『中国が「ゼロコロナは正しい」と喧伝するのは誰のため?』と題する一文を掲載しているので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 「党中央が決めた感染予防・抑制の方針・政策を深く完全に、全面的に認識し、認識不足、準備不足、取り組み不足などの問題を断固として克服」した上で、「“ダイナミックゼロコロナ”の全般的な方針を、いささかも揺るぎなく堅持する」… これは5月6日に国営中国中央テレビのニュース番組「新聞聯報」が、5分間にわたって亘って報じたニュースの一部だということです。

 日本のメディアは、中国のコロナ対策を単に「ゼロコロナ」と称しているが、中国ではダイナミックゼロコロナ(中国語では動態ゼロコロナ)という言葉が使われ、感染者が出たら速攻で抑え込み拡散を防ぐ対策を指す言葉だと宮崎氏は説明しています。

 ゼロコロナ政策に対する中国政府の見解は、「我が国の防疫方針・政策への歪曲、懐疑、否定の言動とは断固として闘争しなければならない」というもの。ゼロコロナ政策に疑念を示したり、転換を促したりするような言動は(国内外を問わず)許さないというのが彼らの基本方針だということです。

 これを報じたニュース番組「新聞聯報」を見た中国の人々は、「今後、ゼロコロナを批判すれば中央に楯突くことなる」と感じたに違いない。長引く厳しい感染対策で、当局への信頼度の揺らぎも見せ始めた国民に対し、習近平指導部が今一度引き締めを狙ったものだろうと氏は捉えています。

 因みに、ゼロコロナ政策を堅持する理由について中国政府は、中国は人口大国の上に高齢者が多く、地域の発展が不均衡で医療資源の総量も不足している。そのため予防抑制の手を緩めれば、大規模な感染を招き大量の重症者や死者が出してしまうと説明しているということです。

 氏によれば、中国の国営新華社通信は5月6日、「西側メディアは色眼鏡をかけて、中国のコロナ政策にでたらめなことを言い、中国共産党と政府の率いるコロナ対策の成果を疑っている」と配信。上海で感染の勢いが鈍化している点などを挙げ、「事実が最も良い反駁だ」と海外の批判への不快感をあらわにしたということです。

 さらに、中国の各地で大規模なPCR検査の実施や、迅速な臨時病院の建設が実現できた事実に触れ、「中国のコロナ対策の成果は、人々が一致団結した力を示しており、“力を集中させ大きなことをやる”という中国の制度の優位を示している」と自画自賛したとされています。

 (そうは言っても)実は中国の専門家の中でも、ゼロコロナ政策の見直しを示唆する意見がないわけではないと宮崎氏はこのコラムで指摘しています。しかし、変わらぬ政府の方針を前に感染症対策の権威である鐘南山氏も、「中国はダイナミックゼロコロナの中で、だんだんと緩めていくことができる。しかし完全な緩和は不適切だ」などと述べ、言葉を選んでいるように見えるということです。

 今や中国でゼロコロナは、感染症対策の一つの選択肢という本来の役割を超越し、習近平指導部による政治運動と化しているようにさえ見えると、氏はこのコラムの最後に綴っています。

 海外からの批判などでは、中国共産党指導部の無謬性は揺るがない。聞く耳を持たない(滑稽なほどの)頑なな姿勢自体が、この政策が欧米の政策への優位性を示すプロパガンダであることを証明しているのだろうなと、昨今の状況から私も改めて感じているところです。

 



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