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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1320 「親日清算」の意味

2019年03月09日 | 国際・政治


 1919年に植民地支配下の朝鮮で起きたとされる広範囲の独立運動である「三・一運動」。その100年目の記念日となる3月1日に韓国の文在寅大統領はソウルでの記念式典で演説し、「歴史を鏡として日韓両国が協力する」ことの重要性を呼びかけました。

 文大統領は演説で、日本が独立運動を鎮圧した際に多数の死傷者が出たことを「蛮行」や「虐殺」といった言葉で紹介したものの、元徴用工を巡る判決や慰安婦問題などの懸案には直接言及することなく、外交摩擦を避ける姿勢を示したとされています。

 また、その一方で「親日残滓の清算はあまりに長く先送りされた宿題だ」と語り、「親日は反省すべきであり、独立運動は礼遇されなければならないという価値を定めることだ」と説明したということです。

 さて、ここで「親日」を否定すると聞けば、私たち日本人には「大統領自らが国民の反日感情を煽る」不穏当な発言のようにも聞こえます。しかし、この場合の「親日」とは、どうやらそれとは少し意味合いが異なる韓国国内における政治問題を指しているようです。

 3月5日の東洋経済onlineでは、東洋大学教授の薬師寺克行氏が「日韓はなぜ良好な関係を継続できないのか」と題する論考において、韓国社会における「親日清算」の政治的意味について解説しています。

 薬師寺氏によれば、文大統領は同じ演説で「親日残滓の清算とは、親日は反省すべき、独立運動は礼遇を受けるべきという最も単純な価値を立て直すこと」だと述べているということです。

 ここで文大統領が用いた「親日残滓」という言葉は、植民地支配時代に日本政府や日本軍に積極的に協力した韓国人のこと。その「清算」とは、そうした「親日」の人たちが戦後も(ぬくぬくと)暮らしていることは許せないという意味だと氏はこの論考で説明しています。

 振り返れば、1948年に独立した韓国では李承晩、朴正煕、全斗煥大統領らの軍事独裁政権が続き、民主化が実現したのは(記憶にも新しい)1987年のことに過ぎません。

 この間、植民地支配時代に日本に協力した人たちが韓国政府の主要ポストを握り続け、植民地支配時代に独立運動に取り組んだ人たちは、韓国独立後、民主化運動に力を入れたことで弾圧の対象になった(親日による被害者だ)ということです。

 さて、この「親日」をめぐる韓国内の論争は、(特に文在寅政権下になって)激しい政治的対立に発展していると薬師寺氏は指摘しています。

 韓国の民主化は「進歩派」と呼ばれるグループの市民運動によって実現し、金大中政権や廬武鉉政権を生み出した。特に2003年に就任した廬大統領は「日帝強占下の親日反民族行為真相究明特別法」を制定し、「親日狩り」ともいえる親日派人物の調査を開始したということです。

 この「親日清算」の動きは徹底していて、2005年には植民地化や植民地統治に協力した人たちの子孫が所有する土地や財産を没収するための「親日反民族行為者財産の国家帰属特別法」を制定。約170人が没収対象の「親日」とされ、子孫の所有する土地などが政府に没収されたとこの論考は記しています。

 (封建時代ではないのですから)日本人なら「何もここまでと」と思うかもしれませんが、韓国の国内政治の対立は実際日本よりはるかに激しいものがあると氏は説明しています。

 例えば、進歩派の廬大統領の次に就任した保守派の李明博大統領は、廬大統領が進めてきた「親日清算」関連の作業をすべてストップさせた。そればかりか、保守系の民間団体は「親日清算」に対抗して「親北人名辞典」を刊行するという徹底ぶりだったということです。

 こうしてみると、「親日」論争は韓国内の政治問題である一方で、日本がまったく無関係とはいえない複雑さがあるというのが薬師寺氏の認識です。

 進歩派(の文政権)からすると、保守派政権時代の政治的資産は、それが内政問題であろうが外交的成果であろうがことごとく否定の対象になってしまう。

 つまり、保守派の朴正煕大統領が実現した日韓国交正常化や日韓基本条約は(その後の韓国経済の著しい成長などの成果にかかわらず)否定すべき対象であり、その娘である朴槿恵大統領時代の従軍慰安婦についての日韓合意も、同じ理由で否定されるべきものに映るということです。

 結果として、日韓関係については過去に締結された条約や政府間の合意などが保守派と進歩派の間の政権交代によってきちんと継承されず、後続の政権によって否定されることがしばしば起こり得ると薬師寺氏はここで説明しています。

 3月1日の演説で文大統領は「今になって過去の傷をほじくり返して分裂を引き起こしたり、隣国との外交で軋轢要因を作ったりしようとするものではありません」と述べていますが、(そういう国内事情もあって)これは文大統領にしては珍しく日韓関係に配慮した発言だったというのが氏の見解です。

 さて、国内の政治的な立場の違いや対立、抗争を外交関係に持ちもまれるのも、日本にとっては迷惑な話です。しかし、朝鮮半島との(有史以降だけでも)2000年近くにわたる歴史的な関係や経緯を考えれば、そうした韓国の国民感情をも飲み込んでお付き合いする必要もあるのかもしれません。

 関係がこじれがちな多少面倒くさい隣人とは言え、だからと言って私たちも日本列島から引っ越すことはできません。

 近くにいていつもお互いを意識している間柄であればこそ、(時に自己中心的な暴走を自覚できない日本にとって)韓国は自らの姿を映す鏡として重要な存在なのではないかと(個人的には)思うのですが、果たしていかがでしょうか。



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