MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2626 賃上げを知らない子供たち

2024年08月25日 | 社会・経済

 青山通り沿いに並んだカフェのテーブルに陣取り、街を行きかう若者の姿を(何気に)見ていて思うのは、彼ら彼女らのファッションが「ずいぶん地味になったなぁ」ということ。ユニクロやZARAなどの量販店に並んでいるような黒やグレーの上下、もしくはデニムにスニーカーといったカジュアルな装いからは、(大変失礼な言い方ですが)「お金がかかっていない」ことが十分にうかがえます。

 確かにいつの時代も、10代、20代の若い世代が(そんなに)お金を持っていないのは当然のこと。しかし、それでも以前ならば、(少なくとも彼氏彼女と青山通りを歩く時くらいは)背伸びをして精一杯のおしゃれをしようと張り切っていたような気がします。

 ファッションばかりの話ではありません。生活にお金をかけないことはもはや「当たり前」。化粧品や車、外食や旅行、遊び方に至るまで、コスパに合わないことを嫌う若い世代は、「無駄」な出費に極めて敏感です。

 住宅情報サイト「SUUMO」の調査では、20代の一人暮らしの家賃の平均は65,723円、家賃を除いた生活費平均額は合計で130,318円である由。食費の平均は月に45,345円で、うち外食費は23,650円。被服及び履物は11,651円で、交際費に至っては平均9,674円と1万円に満たない金額です。

 ここ1~2年、初任給はようやく上がり始めたものの、手取りは今でも20万円そこそこ。光熱水費、通信料など物価がどんどん上がる中で、身を守るすべは「節約」と「貯金」しかないことを、彼らはこの(失われた)四半世紀で身をもって体得してきたと言っても過言ではないでしょう。

 思えばバブル経済も華やかしき頃、DCブランドを身に纏って(やれクラブだやれディスコだと)夜な夜な繰り出し、週末には海外旅行やスキーに忙しかったのが(彼らの親世代に当たる)「アラ還」世代でした。トレンディドラマが一世を風靡した当時の暮らしを(身をもって)体験してきた彼らからすれば、現在の若者たちの生活感は「貧乏くさい」の一言で片づけられてしまうかもしれません。

 これからの日本を背負って立つ(堅実な生き方しか知らない)若者世代に、私たちが伝え残すべきことがあるのかないのか。あるとすればそれは一体何なのか。7月19日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に『脱「失われた30年」』」と将来不安」と題する一文が掲載されていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 コラムによれば、筆者は、「日本経済がついに失われた30年から脱出する段階に入った」と見ている由。成長の原動力である設備投資はAIなどの次世代対応型を中心に増え始め、大企業中心に目立った賃上げもが行われるようになったというのがその理由です。

 このメガトレンドは現在も変わらない。しかし、にもかかわらず、日本人の感覚は次の成長段階へ一歩踏み出せずにいるように見えるというのが、この論考における筆者の見解です。

 1~3月期の実質GDP(国内総生産)は季節調整済み年率換算で前期比2.9%減となり、2023年度は1.0%の低成長にとどまった。GDPの過半を占める消費支出が一向に伸びず、民間最終消費支出は1~3月期がGDP全体と同様、年率2.9%の減少だったとのこと。筆者はここで、所得と消費との関係を示す消費関数の考え方として、「恒常所得仮説」なるものを紹介しています。

 それは、人々の消費は短期的な所得ではなく、長期的に期待できる所得(恒常所得)に反応するという考え方。そして、ここで注意すべきは、本格的な賃上げを経験したことのない世代が、いまの日本経済の最大の担い手となっているという現実だというのが筆者の指摘するところです。

 日本から「賃上げトレンド」がなくなった最初の世代が、現在の55歳前後の年齢層。それ以降、現在まで賃上げのない社会に巣立っていった年齢層を合計すると、(現在)働いて賃金を得ている世代のほぼ80%に達すると筆者は説明しています。

 ここには就職氷河期、非正規労働急増期を過ごした世代、さらには1990年代後半以降に生まれたいわゆるZ世代も含まれる。この世代は、単に所得が増えないだけではなく、(合計特殊出生率が1.20まで下がったことに象徴されるように)将来に強い不安感を抱いている(抱かざるを得ない)世代でもあるということです。

 さて、今年の春闘では、連合が集計する大企業中心の賃上げ率や厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の所定内給与増加率のいずれもが、約30年ぶりの大きさとなった。(いよいよ)潮目は変わったと筆者は言います。だが、それでも人々の「心」には届いていない。そこには「将来不安」が重くのしかかっているというのが筆者の見解です。

 未来への漠然とした不安を抱えたままの現役世代。「給料は上がるもの」「将来はもっと良くなる」…そうした期待が持てなければ、例え若者であっても手元のお金を使う気にもなれないということでしょうか。

 まずは、年金、社会保障制度改革、その土台となる財政健全化、安定した少子高齢社会への道筋など、国民が安心できる長期ビジョンを提示することが政府の最重要課題のはず。目先の政争に時間を浪費するヒマはないとコラムを結ぶ筆者の指摘を、私もさもありなんと読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿