MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2634 東京に出た女性をおカネで地方に連れ戻す?

2024年09月09日 | 社会・経済

 8月30日、政府の2025年度一般会計予算に関し、各省庁の概算要求総額が117兆円を超える見通しになったと各メディアが報じています。24年度の114兆3852億円を上回り、2年連続で過去最大を更新するということです。

 背景には、年金や医療などの社会保障費や防衛費の増大に加え、大量発行を続けてきた国債の元利返済に充てる国債費の膨張などがあるとされています。さらに、今後詳細が明らかにされるにつれ、「???…」と首を傾げたくなるような事業の存在も指摘されるようになって来ることでしょう。

 例えば、現時点ですでに話題に上っているのが、政府による「地方への移住支援金の拡充」というもの。あまり知られていませんが、現在、東京23区に居住する、もしくは首都圏からから23区内に通勤している単身者が地方に移住し就業または起業した場合、男女を問わず60万円の支援金が支給される制度があります。来年度はこれに加え、東京23区に在住・通勤する女性が結婚を機に移住する場合、最大60万円を軸にさらなる加算金の支給を検討しているということです。

 内閣官房によれば、まずは移住対象として複数の市町村を選び、モデル事業を実施するということですが、「なぜ女性だけ?」「他にやるべきことはあるだろう」と、早くも批判の声が各所で上がっているようです。

 こうした動きに対し8月30日のニュースサイト「日刊ゲンダイDIGITAL」は、早速、『東京23区から「移住婚」女性に60万円のバカバカしさ…税金のムダは必至、もちろん大炎上!』と題する記事を上げています。

 なんともツッコミどころが多いこの政策。若い女性の東京への流出が続く中、過度な一極集中に歯止めをかける狙いとのことだが、移住の支援自体は良しとしても、結婚する女性に限るという点や実効性を疑問視する声で、ネットは早くも大炎上だと記事は(手厳しく)指摘しています。

 記事によれば、SNS上には既に「女性をモノ扱いしているようでキモイ」「地方の仕事を増やすのが先」「金額がケチ」などのコメントが寄せられている由。内閣官房では、「地方は未婚男性の方が多く、アンバランスを解消する狙い」「まだ制度設計の段階なので、これから詳細を詰めていく」と火消しに躍起になっているということです。

 それにしても、この制度にどれほどの効果があるのだろうか。そもそも女性が東京に集まるのは、地方だと就労機会に恵まれずキャリアアップも望めないから。たかが60万円程度のカネで、「じゃあ、地方で結婚するか」と考える女性がどれほどいるのかと、記事は疑問を呈しています。

 もともと結婚して移住を考えていた女性が「ラッキー」と補助金を受け取るケースがほとんどなのではないか。(政治のいわゆる「やってる感」は醸し出せたとしても)こうしたバラマキを安直に講じても、税金をムダにして終わるのが初めから見えているというのが記事の認識です。

 さて、確かに(もしも)この政策が上手くいって「結婚して地方に暮らす女性」が増えたとしても、ただでさえ低い東京の出生率がその分下がるだけで、日本の「少子化」に寄与するとは到底思えません。

 そもそも、なぜ独身の若い女性は東京に代表されるような「都会」を目指す(目指さざるを得ない)のか。そこを出発点とすれば、地方を若者たち(特に若い独身女性たち)が暮らしやすい場所にすることこそが最優先の課題であることは、行政に携わる者なら誰でも理解しているはずです。

 そこで何より気になるのは、役人による政治への忖度、おもねりの姿勢の存在です。国民を馬鹿にしたようなバラマキを否定せず、金で解決しようという(ような)アイディアを臆面もなく出す役所(この場合は内閣府)の姿勢こそが、税金の無駄遣いの原動力となっていることに彼らはもっと自覚的になるべきでしょう。

 さて、…と、ここまで書いてきて、自見英子内閣府地方創生担当大臣が9月3日の閣議後の記者会見で、「移住をして結婚した女性に対して60万円を支給するという検討は一切行っておりません」と語り事実上の撤回を表明したとの報道を耳にすることになりました。

 「女性に限定した移住支援策というのは、頭にもなかったということですか?」との記者の質問に対し、自見大臣は「全くありません」と断じたとのこと。検討すらしていない、自分が知らないところで概算要求に乗せられていた(のだろう)と説明したということです。

 もとより、担当大臣が知らないところで目玉事業の予算が概算要求に計上されるはずもなく、報道機関に対して説明までされるはずもありません。性別で分ける不公平感や金額についての批判が相次いだことで慌てて取り下げたのでしょうが、それにしても「自分は知らなかった」と言ってのける大臣のメンタルの強さは、大したものだなとも思います。

 「御批判を受け、私の判断でもう一度よく検討するよう指示した」とかなんとか説明すればよいものを、これはこれで「なんだかなぁ」という感じ。現実も、そして政治的にも「なり振りかまっていられない」状況にあるのはわかりますが、(逆に)国民から馬鹿にされないよう、もう少し知恵を使ってもいいのではないかと感じないでもありません。