MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2503 学校の先生が不人気なワケ

2023年11月28日 | 教育

 世界最大規模の世論調査会社「イプソス」が9月21日に公表した、世界29カ国を対象にした「教育に関する意識調査2023」の調査結果。これによれば、「自分の子供や知り合いの若者に教員になるよう勧めたいか?」という設問に対し、(日本国内で)「そう思う」と答えた人の数は19%で、各国平均値(43%)を大きく下回り29カ国中2番目に低い割合だったということです。

 因みに、「あなたの国では大半の教員に十分な給与が支払われているか?」という問いに対し、「そう思う」と答えた日本人は31%で半数以上が十分ではないと考えているとのこと。さらに、「あなたの国では、大半の教員が仕事に熱心に取り組んでいるか?」という設問に「そう思う」と答えた日本人は47%で、同率の韓国とともに29カ国中の最下位。教員という職業自体への信頼も(極めて)低いことが、改めて浮き彫りにされたようです。

 実際、教員のなり手不足は深刻で、例えば2020年度採用の教員試験における公立小学校の採用倍率は過去最低の2.7倍。(こちらも倍率が低下している)中学校の5倍、高校の6.1倍と比べても、その人気は際立って低いとされています。

 そうした中、最も「狭き門」だった20年前と比べ小学校教員の採用者(全国)は約1万6700人と5倍近くも増えており、一方の受験者は約4万4700人で1500人近くも減少。定年退職を迎える教員に採用が追い付かず、人材の質の低下を懸念する声も大きくなっているということです。

 若者たちがこぞって「安定」を目指すこの時代、「学校の先生」という職業はなぜこれほどまでに輝きや魅力を失ってしまったのか。10月9日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」に、現職の公立小学校教師である松尾英明氏が『「学校の先生は不人気職業」は真っ赤な嘘…大企業並の退職金をもらえる"教員ブランド"を貶める犯人は誰か』と題する一文を寄せていたので、小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 現場の感覚から言っても教員の数が不足しているのは否めない。しかし、だからといって(よく言われるように)「教員=不人気」かといえば決してそういうわけではないと松尾氏はこの論考で指摘しています。

 この20年間の小学校教員採用試験の希望者数の変化を見ると、2000年に4万6156人だったものが2022年には4万636人。小学校教員採用試験の受験者総数はマイナス約5500人で、1割弱しか減っていないと氏は言います。

 一方、同時期の新成人の総数自体はマイナス44万人と、この20年で3割近くも減っている。つまり、母数である新成人全体に対して占める割合で言うと、元の2.8%程度から3.3%程度へ上昇しており、(新成人の人口に対する割合で考えれば)以前に比べ小学校教員の人気はむしろ上がっているというのが氏の認識です。

 教員採用試験の倍率が下がったのは(小学校教員が不人気になったからではなく)、単に労働人口総数に対し募集人数が大きく増えたから。現在の学校は、以前にも増して人手がかかるようになっており、例えば特別な支援を必要とする子どもへの対応や特別支援学級の増加、少人数指導への対応、算数のTT(ティームティーチング)などにより、1校あたりの定数が大きく増加していることを加味する必要があるということです。

 もとより、昭和の時代に大量採用した教員の定年により人員にぽっかり穴があいてしまった部分への補塡が急務であることは言うまでもなく、急にたくさんの教職員が必要な状況に陥り、慢性的に大量採用に至っているというのが実情とのこと。そうした中、採用試験の受験者人数を見る限り、現状でもかなり多くの人が教員を志望してくれていると氏は話しています。

 小・中学校教員の平均年収は約698万円で、2021年における民間の給与所得者の平均年収443万円よりもかなり多い。また、定年退職金は大企業並みの2417万円で、中小企業平均の約2倍。公務員として身分的にも安定しており、多くの優秀な学生の進路先の選択肢になっているということです。

 では、そこにある問題は何かといえば、文科省や自治体などの募集する側(そして肝心の教員自体)の世間に対する「足りない」キャンペーンが強すぎて、「教員不人気」というイメージに余計な拍車をかけていることだというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 それ故、職業選択の幅の最も広い東京都においては、今年度ついに小学校教員採用試験で1.1倍という超低倍率を叩き出してしまった。情報に最も敏感な大都市ならではの現象として、キャンペーンの影響が悪い方向で直撃しているように思われるというのが氏の見解です。

 確かに、教員の仕事は楽とはいえないし、業務時間が長いことも周知の通りかもしれない。子どもだけでなく保護者への対応を求められる教員の難しさは否定すべくもない現実だと氏はしています。

 しかし、業務時間が長くなりがちなのは、「より良い授業をしたい」と思いから来る授業準備や、部活動指導などへの情熱による積極的な長時間勤務によることも多い。それが問題だと言われれば立つ瀬はないが、少なくとも嫌々残らざるをえない場合とそうでない場合が混在しているのが常であり、これらはやりがいのある仕事に共通するものではないかというのが氏の感覚です。

 現場の人間が、「大変だ」「人手が足りない」と愚痴をこぼし続けるばかりでは、優秀な人材には敬遠されるばかり。まずは先生たち自身が仕事の魅力を語ることが、若者を惹きつける最大のアピールになるということでしょう。

 どんな仕事であっても、真剣にやれば大変さと楽しみの両面がある。そんな「学校の先生は楽しいぞ」ということを実感として伝えるのは、現役教員の大切な役割ではないか話す松尾氏の指摘を私も興味深く読んだところです。



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