MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2393 少人数学級へのハードル

2023年04月09日 | 教育

 いじめ問題や不登校の児童生徒の増加など、学校教育を巡る問題が様々に取りざたされる中、教育現場を担う教員を志す若者が急激に減少しているという指摘があります。

 文部科学省の調査によれば、去年、全国で採用された公立の小中学校や高校などの教員の採用倍率は3.7倍で過去最低となり、このうち小学校の採用倍率は2.5倍と、4年連続で過去最低となったとされています。

 特に東京都の場合、2013年度の採用試験では受験者数が1万7326人だったものが5年後の2018年度では1万3335人になり、さらに5年後の2023年度では7911人と10年間で半減しています。合格率は実に49%と、受験をすれば2人に1人が受かる状況で、(人気のない)小学校に限ると合格率は7割に達しているということです。

 こうして教員採用試験の受験者が大きく減る中、横浜市教育委員会は2023年度から小学校教員を志望する大学3年生に、内々定を出す選考を始めるとしています。これまでの採用実績に応じて全国の大学に「推薦枠」を割り当て、一般教養などの1次試験免除して、面接と模擬授業、論文で合格すれば、4年生の4月に正式な採用内定を出すということです。

 若者に人気のない「教員」を確保するため、自治体ごとに涙ぐましい努力をしている様子がうかがわれますが、こうなると懸念されるのは新規採用教員の「質」の問題。実際、文科省の委託調査(2022)によると、小学校の20代教員の26%が「出身大学の入学難易度は高くない」と答えているとされています。

 折しも、現在効率の小学校では、35人学級について21年度から25年度までの5年間で整備を図っているところであり、現場の準備も進められています。また、加配定数についても、小学校高学年の教科担任制に対応して22年度から4年程度で改善を図るとされており、新採教員は引く手数多というところでしょう。

 これまで「ブラック」と呼ばれ続けてきた学校の職場環境は、果たして改善の方向に向かうのか。『週刊プレイボーイ』の2023年1月30日発売号に、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が「教員のなり手が減っているのに少人数学級が実現できる?」と題する一文を寄せているので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 2021年3月に、公立小学校の1クラスあたりの生徒数を35人以下に引き下げる改正義務教育標準法が成立した。これによって、22~25年度に教職員定数を毎年3000人超ずつ増やし、計1万3500人程度の増員が予定されていると橘氏はこのコラムに記しています。

 その目的は、少人数学級の方が、先生は一人ひとりの生徒に目が行き届き、学力の向上や、いじめ・不登校の改善が期待できるというもの。(これだけ聞くと)よいことばかりに思えるが、実は大きな問題が隠されているというのが氏の認識です。

 それは、教員のなり手がどんどん減っているという現実である。実際、公立小学校教員の23年度採用試験の受験者は、全国で3万8641人と前年より約2000人も減っていると氏は言います。

 教員の志願者が減れば、当然、採用倍率は下がってくる。10年前は4.4倍だった公立小学校の採用倍率も現在では過去最低の2.5倍まで落ち込んでおり、35人学級が完全実施される頃には、大学で教員免許さえ取得すれば誰でも公立小学校の教師になれる時代がやってきそうだということです。

 一方、公立学校では日常的に教員の欠員が生じていて、山梨市では教委が「病気や出産で休暇に入る教員の代替の確保が非常に厳しい」という内容の文書を保護者に配り、教員免許保持者の紹介を頼んで話題になったと氏はしています。

 教育委員会もこの事態に手をこまねいているわけではなく、山梨県は、小学校教員採用試験の受験者に対する奨学金の返済の一部を「肩代わり」する事業を始めている。その他の都道府県でも、「大学訪問を通じて志望者を掘り起こす」(秋田県)、「受験年齢制限の撤廃や東京会場での試験の実施」(福島県)、「教員の魅力を発信する説明会を高校生も対象に実施」(三重県)など、思いつく限りの様々な努力をしているということです。

 少子高齢化と人口減で慢性的な人手不足の時代を迎えている日本では、いまや若者は(よほどの)プレミアムがなければ集まらない。民間との人材獲得競争はますます厳しくなっていると氏は話しています。

 そうした中、残業代ゼロで長時間労働し、部活で土日もなく、授業だけでなくモンスターペアレントの相手までしなければならないのでは、どれほど高い志があったとしても二の足を踏んでしまうということです。

 一方で、教員の質が下がれば保護者の不満や苦情が増え、学級運営はさらに難しくなるだろうと氏は言います。教員の不祥事が増えれば、学校はメディアやSNSで世間から(丸ごと)はげしくバッシングされる。これでは教員志望者はますます減り、富裕層は子ども私立に入れるので、経済格差は拡大するばかりだというのが氏の見解です。

 少人数学級の実現を目指した理想主義の教育関係者は、自分たちの子ども時代と同様に、志の高い若者がいくらでも教師になってくれると思っていたのかもしれない。しかし、少人数学級の導入がたどる先を見ると、(いつものように)「地獄への道は善意によって敷き詰められている」と話す橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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