MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2340 台湾防衛のリアリティ

2023年01月15日 | 国際・政治

 中国の習近平国家主席は、3選を決めた昨年10月の中国共産党大会における演説で、「(台湾統一の手段について)我々が武力の放棄を約束することはけっしてない。我々は必要なあらゆる選択肢を保持する」と強調したと伝えられています。

 米シンクタンクの大西洋評議会が世界の専門家167人に対して行ったアンケート調査によれば、「10年以内に中国は武力で台湾を奪取しようとする」という予想に「強く賛成する」と回答した者の割合は12.1%。「ある程度賛成する」の58.4%を加えれば、全体の7割以上が武力侵攻はおそらく(10年以内に)あるだろうと考えているということです。

 同11日に米ワシントンで開かれた日米外務・国防閣僚協議(2プラス2)に臨んだ米国は、台湾一帯での紛争に備えて日本の自衛隊と指揮構造を統合し、連合作戦を拡大する計画を示したとされています。米軍は海兵隊を2025年までに改編し、島嶼地域の紛争などに迅速に対応できる海兵沿岸連隊をハワイ、グアム、そして沖縄の3カ所に置く案を検討しているということです。

 一方、日本もこれに同調し、九州南部から沖縄最南端の与那国島まで続く南西諸島の防衛力強化を進めるとされています。報道によれば、防衛省は陸上自衛隊第15師団と旅団に格上げし、(まずは)同地域の兵力を約2200人から3000人規模に増やしていくということです。

 2023年の新年を迎え一層リアリティを増す中国の台湾への武力侵攻ですが、もしもひとたび有事となれば、一体どのような事態が待ち受けているのか。1月13日の総合情報サイト「現代ビジネス」に、ジャーナリストの長谷川幸洋氏が「中国・習近平による台湾進攻は近い…その際に、日米台が受けるリアルな被害」と題する論考を寄せているので、参考までに一部を紹介しておきたいと思います。

 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が1月9日に公表した、中国の台湾侵攻シミュレーション。5つのシナリオ、24パータンにわたって繰り返されたシミュレーションは、そのほとんどが日本の参戦を前提にしたものだと長谷川氏は説明しています。

 結果、楽観シナリオでは「米日台連合軍が圧倒的に勝利」、基本シナリオは(楽観ほどではないものの)やはり「米日台側の勝利」を想定。悲観シナリオでも、中国のやや優勢を想定しているがそれでも「中国は勝利できない」という結果に終わったということです。

 しかし、問題は(結果ではなく)双方の被害の大きさだと、氏はここで指摘しています。基本シナリオでも、米国は航空機270機、艦船は2隻の空母を含めて17隻を失う。死傷者は開戦から3〜4週間の戦闘で6960人、うち死者は3200人。1日当たりの死者を140人とすると、最悪期のベトナム戦争での30人、アフガニスタン戦争での3人に比べて非常に多く、第2次世界大戦当時の300人に迫るものになると氏はしています。

 日本の自衛隊は航空機112機、艦船は26隻、台湾軍は航空機の半数とすべての艦船26隻を失う。一方、中国の人民解放軍は航空機155機、艦船は138隻を失い、死傷者は地上と海上で計2万2000人に上る。悲観シナリオではさらに被害が大きく、米軍は航空機484機、艦船14隻、自衛隊は航空機161機、艦船14隻を失い、中国の損害も航空機327機、艦船113隻に及ぶということです。

 以上の結果を鑑みれば、はたして、それほどの犠牲を出してでも米国は参戦するのか、それでも日本は参戦すべきなのか…といった疑問が湧くのは当然だと、氏はこの論考に綴っています。いくら米日台連合軍が勝利し、台湾防衛に成功するとしても、「この被害・損失はあまりに現実離れしているのではないか」というのが氏の見解です。

 長谷川氏によれば、調査を実施したCSISは、その報告書に「我々の(シミュレーションの)目的は、国民に議論を促しそれによってこの死活的に重要な国家安全保障問題について、国民がよく理解したうえで決定を下せるようにすることにある」と記しているということです。

 さて、日本国内ではまだまだ関心も高くない台湾問題ですが、日本が議長国となる5月のG7を前に、台湾有事の際の準備は(世論を置き去りにしたまま)関係国の間で着々と進められている観もあります。

 人的にも部的にも悲惨な犠牲と被害が想定される台湾における武力衝突。それは、本当にコストパフォーマンスに見合った国益にかなうものなのかについては、(今のうちに)国内においてももう少し踏み込んだ議論の必要があるでしょう。

 因みに、昨年8月に米シンクタンクのシカゴ国際問題評議会が行った米国民へのアンケート調査によれば、中国が軍事侵攻した場合に(台湾の政府を守るため)米軍を派遣することに「賛成する」という意見は半数以下の40%にとどまったということです。また、中国の海上封鎖に対抗するために米海軍を派遣することについては、回答者の62%が「賛成」と回答したとされています。

 いずれにしても、(こうした被害想定を見れば)実際に中国が台湾海峡にコマを進めるようなことがあっても、米軍が正面対峙を避けることは想像に難くありません。その際、地理的台湾に最く関係も深い日本にどのような選択肢があり、私たち国民としてはどのように行動すべきなのか。

 どうやら、時間はあまり残されていないようです。安全保障の専門家の意見を踏まえ様々な観点からの議論が必要ではないかと、この論考を読んで私も改めて感じたところです。



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