MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2110 新たな冷戦時代にどう向き合うか

2022年03月14日 | 国際・政治


 国境に地上戦力を並べたロシアの一方的なウクライナ侵攻から、気が付けば半月がたとうとしています。女性や子供を中心に200万人を超すウクライナ人が欧州諸国に逃れる中、この局面で注目されるのは(「意外」と言っては申し訳ありませんが)ゼレンスキー大統領率いるウクライナ国民の結束とウクライナ軍の善戦と言えるでしょう。

 とはいえ、圧倒的な物量を誇るロシア軍の進撃を、ウクライナが(その士気だけで)いつまでも食い止めていられるわけではありません。首都キエフにロシア軍戦車の隊列が迫る中、今後の世界の動きを見通し国際社会には一体何ができるのか。3月12日の日本経済新聞の紙面において、ウクライナ問題から派生する今後の国際情勢に関し、同紙コメンテーターの菅野幹雄氏が「同盟の強さと米国の弱さ 新冷戦が問う最強国の胆力」と題する論考を寄せていたので、参考までに小欄に残しておきたいと思います。

 日々の戦況に関心が集まる中、国際秩序の潮流にウクライナ危機はどのような影響を与えているのか。そこで注目されるのが、米国と欧州、日本など「西側」の迅速で強力な結束だったと菅野氏はこの論網に記しています。

 2月24日の侵攻開始を受け、主要7カ国(G7)はすぐさまロシア大手銀行との取引の停止を決めた。そして、有力行の国際決済網からの遮断、オリガルヒとよばれるプーチン氏に近い新興財閥関係者の資産凍結など、ロシア(経済)に対する厳しい制裁措置を繰り出したということです。

 ここで米国の専門家が(ひとつの節目になったできごととして)指摘するのは、経済面でロシアに依存してきたドイツの急激な方針転換だと氏は話しています。ドイツのショルツ首相はロシアによる侵攻の3日後、国防費を国内総生産(GDP)の2%を超す水準に引き上げると宣言し、新たな天然ガスパイプラインの稼働停止やウクライナへの武器供与を発表した。わずか就任3カ月で決然と方針転換を決めたショルツ氏の株は、今、国際社会で急上昇しているということです。

 「北大西洋条約機構(NATO)はかつてないほど結束している」とNATOのストルテンベルグ事務総長が強調したように、米ソ冷戦の終結から約30年、ロシアと西側の勢力圏に新たな「鉄のカーテン」が実質的に築かれようとしていると菅野氏はしています。結束の源は、「国を守る」とキエフから強力な発信を続けるウクライナのゼレンスキー大統領の強力な意志にある。利害の異なる米欧の足並みの乱れを映し、民主主義勢力の限界をさらしたかったプーチン氏も、今や皮肉ながら西側の結束の立役者の一人だというのが氏の認識です。

 一方、このような同盟の強さと裏腹に、旧ソ連崩壊で最強国となった米国の「弱さ」を指摘する声も多いと氏は話しています。米国はなぜプーチンを止められなかったのか。そこには、バイデン政権が自らの「弱さ」を示す数多くのシグナルをプーチンに送ったからだと批判する声もあるようです。

 アフガニスタンからの米軍撤収を巡る混乱、ウクライナへの武器供与に対する米議会の抵抗、イランに米欧との核合意への復帰を促す交渉姿勢等々…バイデン大統領は「戦争をしたくない」という意図を相手側に明確にさらしてしまったというものです。

 一方、トランプ前大統領が口にした『自分なら危機は防げた』という指摘は、ある意味、正鵠を射ているという指摘もあるようです。トランプ氏の粗野でとっぴな振る舞いや言動に、中国やロシアは注意深く接していた。リアクションが読めない米国に何かを仕掛けることのリスクを考えれば、危険な賭けには打って出られなかったということでしょう。

 しかし、プーチン大統領を信奉するトランプ氏の存在は、同盟西側諸国にとってもリスクの大きい存在であることは間違いありません。そうした中、英王立国際問題研究所のロビン・ニブレット所長は「バイデン政権は賢明で思慮深い動きをした」と話していると菅野氏は指摘しています。

 米情報当局はプーチン氏やロシア軍の動向をほぼ正確に把握し、機密扱いともいえる情報を同盟国に積極的に発信した。仲間内で相手側の出方を幅広く探り、予期できる混乱を先取りして相手により厳しい手を打つ。今回のロシアへの経済・金融制裁には、秘密主義を超えた戦略的な封じ込め策の性格が色濃く滲んでいるということです。

 そして、そうした米国の視線の先には、(常に)中国があると菅野氏は続けます。ウクライナ侵攻を巡るロシアのもたつきは、プーチン氏への「全面的支持」を表明した中国を複雑な立場に追いやった。国際社会で孤立を深めるロシアは、台湾併合などの野望を抱く中国にとっての反面教師になっているということです。

 菅野氏によれば、米国の対中政策を担ったダニエル・ラッセル元国務次官補は現在の状況について、「中国の指導部は現状に驚き、恐れさえ抱いているだろう」と指摘しているということです。強権国家を抑えるための最善の策は、対抗勢力が一枚岩であることを示すこと。同盟国や友好国が価値観やルールの共有に向けて強固なネットワークをつくることにあるということです。

 もちろん日本もその一翼を担う必要があると、菅野氏はこの論考に綴っています。(少なくとも現在のところ)米オバマ政権で外交政策に携わったジャパン・ソサエティーのジョシュア・ウォーカー理事長が言うように、「岸田文雄政権の動きは期待以上に早かった」と評価する声は多いということです。

 新たな冷戦の時代の到来を前に、単なる「力ずく」は通用しないと氏は言います。最強の経済と軍事力を維持する米国にこそ、ソフトパワーで中国を抑え込む胆力が欠かせない。ウクライナ危機はそんな教訓を導こうとしているとこの論考を結ぶ菅野氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。


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