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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯913 ショーケースに並ぶ子育て

2017年11月07日 | 日記・エッセイ・コラム


 精神科医で作家の熊代亨(くましろ・とおる)氏は、8月30日の自身のブログの中で「東京での子どもは(まるで)ショーケースの向こう側の存在に見える」と喝破しています。

 東京での子ども(子育て)は、そのハードルが余りにも高くなるに従って宝飾品のたぐいや高級ワインやスポーツカーに近づいているというのが、この論評における熊代氏の見解です。

 1990年代には、マイホームに暮らす核家族というイメージが消費の対象になったが、2010年代における子ども・子育ては、(ついに)ショーケースの向こう側にある購入可能な商品と見なされるようになった。

 消費の対象が「モノ」より「コト」などと言われている今日ではなおさらのこと。「こんな家族って素敵でしょう?さあ、お買い求めください」と幸福な親子のイメージがテレビや動画のCMに(これでもかと)映し出され、消費の対象と化しているという指摘です。

 幸か不幸か、東京で子育てをしている人々、中でも見事に子育てをやっている人々は、そのイメージどおりの家族をまさにやってのけていると熊代氏は言います。確かに、日曜日の二子玉や武蔵小杉を歩けば、そうした沢山の(CMに出てきてもおかしくないような)幸せそうな家族に出会うことができます。

 氏はこの論評で、現代人の大半は、ただ子どもを産んでただ飢えさせないだけでは決して「良い子育て」とはみなされないとしています。

 子どもは教育されなければならない。教育にはお金がかかる。東京周辺では、塾や稽古事に行かせない子育てなど誰もイメージしていないし、ご近所やママ友、ジジババともうまくやりながら、参観日や運動会、そのほか親子で楽しむ余暇も過ごさなければならないと皆が思っている。

 「人並み」の子育てをするための様々なコストが消費に直結しており、これらを欠いた子育てをイメージしている東京人などいないし、全く違った大胆な子育てをやってのける東京人もなかなかいないだろうということです。

 氏は、東京ではこれらの前提を欠いていればいるほど、「親としてできていない」と謗られかねないと説明しています。

 他人から批判されなくても、世間の子育てのイメージから乖離していると親自身が自覚していれば、それだけで罪悪感に苛まされることになる。なぜなら、子育てとは「こういうもの」だ、「こういうものであるべき」だという固定観念やルールが、社会の隅々に浸透しているからだということです。

 そうした状況を考えれば、特に東京に暮らす若い女性にとって、結婚や子育てに思いを巡らせるのは相当大変なことだろうと、氏はさらに指摘しています。

 待機児童問題という、共働き夫婦にとって重要な問題がいまだ解決されていない中、祖父母に子育てを手伝ってもらいにくい夫婦も首都圏にはたくさんいることでしょう。

 教育にとにかく費用がかかりすぎる今日、地方の郊外でも子どもに何かを習得させるためにはリソースを投下するしかないところを、首都圏ではその相場が極めて上がっている。見栄っ張りな親たちにとって、教育費は、底なし沼のようなものだというのが、現代の東京での子育てに対する氏の基本的な認識です。

 「コトの消費」「体験の消費」といった観点から見て子育てが素晴らしいものであることは間違いないにしても、それは楽なことばかりではないし、大半の父親や母親人にとってその一生を左右するほどコストがかかるのも事実です。

 実際、関連の企業によって提供されたネットの情報を頼りに子育てに勤しむ不安な若い親たちにとって、お金を払って提供されるサービスや商品、つまり「消費」を前提としない子育てなど考えられないことでしょう。

 それは、(幸せな)子どもや子育てが「お金」で買えるものだということへの信憑であり、裏を返せば、お金がなければ幸せな子どもは育たないという(ある種の)諦念につながる見識と言えるかもしれません。

 こうして、子どもと子育てがショーケースに陳列されて、おいそれと手が出せない状況が続く限り、東京の出生率が高くなることなどあり得ないと熊代氏はこの論評で指摘しています。

 その東京に全国の若者が吸い寄せられ続けるとしたら、次の世代の日本はどのような状況になってしまうのか。子どもがショーケースに入っているような国に、未来などあるのか。

 そのように結ばれた熊代氏の論評を読んで、私も様々なプレッシャーの中での子育てに(まさに全身全霊で)頑張り、そして疲れ果てている都会の若いお父さんやお母さんの姿に思いを馳せたところです。



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