MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2114 本当の戦いは停戦から

2022年03月19日 | 国際・政治


 ウクライナへの地上部隊の侵攻を続けるロシア軍は、ミサイルや砲撃を中心に無差別攻撃を続ける一方で、停戦協議にもいよいよ本腰を入れ始めたとの情報が伝えられています。

 ウクライナ国内ではウクライナ軍の(「想定外」ともいえる)抵抗で膠着状態となっている前線も増え、ロシア軍の損失は想定以上に膨らんでいるとされている。ロシアのプーチン政権には、開始から3週間となる侵攻の長期化は得策ではないとの判断が働いているとみられ、今後の交渉の行方が注目されています。

 3月18日の読売新聞オンラインによれば、ロシアの大統領報道官は17日、停戦協議に関し「交渉を妥結し合意を履行すれば、ウクライナで起きていることに終止符を打てる」と述べ、停戦への積極姿勢を強調したとされています。報道官は、軍を持ちながら軍事同盟に入らないオーストリアやスウェーデンをモデルにウクライナを「中立化」する案を協議していると明らかにしており、ロシア政府筋からは「数日中に合意に達する可能性がある」との見通すら示されたということです。

 欧米諸国を中心に(ロシア非難で一致した)国際世論の高まりや、戦死者7000人以上とも言われるロシア軍の被害の拡大もあり、ここに来て明らかに変わりつつあるロシアの態度。この時代、広い荒野で国家レベルの軍事侵攻を続けるというのは、(経済制裁の影響なども含め)大国ロシアにとっても相当の体力を消耗するものなのでしょう。

 もしもロシアの軍事侵攻がこのまま長期化していったら、国際社会にどのような影響をもたらすことになるのか。3月18日の総合情報サイトJBpressに、アゴラ研究所代表取締役所長の池田信夫氏が「ベトナム化するウクライナは日本経済の脅威」と題する論考を寄せているので、(参考までに)その概要をまとめておきたいと思います。

 池田氏はこの論考において、もしもこのままウクライナのゼレンスキー政権がロシアによる停戦の提案を受け入れたとしても、ロシアにとっての「本当の戦い」は、その停戦から始まることになるだろうと論じています。

 20世紀以降の歴史が教えるのは、占領統治は戦争よりはるかに困難だという事実だと氏は言います。その困難さは、国家の大きさといったものとは関係なく、例え日本のような大国でも、その政権基盤がすでに空洞化していた場合には占領統治はあっけないほど簡単だった。アメリカの占領軍が日本に上陸したとき、国民の決死の抵抗を恐れていたが、日本人は星条旗を振ってマッカーサーを歓迎したということです。

 身近な例では、冷戦の終焉で誰もが驚いたのが、70年以上にわたって続いた社会主義が数カ月で崩壊したことだと氏は続けます。恐れられていた軍事衝突は、旧ソ連の内戦などを除いてほとんど起こらなかった。戦前の天皇制が日本人の支持を失っていたように、社会主義は既に国民の支持を失っていたからだということです。

 一方、ベトナムのような小国でも、そうはいかないことはある。アメリカの軍事力をもってすれば傀儡政権の維持は容易だと思われたが、1955年にゴ・ジン・ジェム政権ができてからもベトコンのゲリラ戦が続き、アメリカは20年後の1975年、ついに南ベトナムを手放した。(最近の例では)アフガニスタンでも、2001年に9・11のあと、一旦はアメリカがタリバン政権を倒したが、それから20年たってバイデン政権は撤退したということです。

 他の例を引くまでもなく、ことほどかように国民の支持を得ていない傀儡政権や外国統治に対してはゲリラの抵抗が続き、彼らが撤退するまで内戦は終わらないと氏はこの論考で指摘しています。

 このように占領統治に日本型とベトナム型があるとすると、ウクライナは明らかにベトナム型にあてはまる。プーチン大統領は、ロシア軍がキエフを占領して住民投票を行えば(クリミアのように)圧倒的多数がロシアの統治を望むと思っていたのかもしれないが、ゼレンスキー大統領はSNSを活用して国民を団結させることに成功している。

 ベトナム戦争では、北ベトナムが「ホーチミン・ルート」で軍事支援を続けたことが長期にわたって抵抗を続けるべトコンの大きな支えとなったが、今回は一転、アメリカがウクライナ政府を支援していくだろうということです。

 短期決戦で勝負がつく場合にはあまり問題にならないが、戦線が膠着するとロシア軍は補給がきかなくなる。そこに経済制裁で物資が足りなくなり、国債のデフォルトで財政が破綻し、海外の資産凍結で外貨準備がなくなると、ロシアは海外からも物資を調達できなくなると氏は話しています。

 国内の他の地域に配備した部隊をウクライナに移すなどして頑張れば、そんなロシアでもキエフの占領統治を続けることぐらいはできるかもしれない。しかし、少なくとも西部の多くの地地域で、長期にわたって執拗なゲリラ戦が続くだろうというのが氏の予想する戦線の姿です。

 ベトナムでは、民間人と区別のつかないゲリラによって世界最強のアメリカ軍が20年間にわたって苦しめられた末に撤退した。もしも同様にウクライナ市民がレジスタンスとして抵抗し続ければ、GDP(国内総生産)がアメリカの7%しかないロシア経済は、1年ともたないだろうと氏はしています。

 そのときは、社会主義が崩壊したようにプーチン政権も崩壊するかもしれない。あるいはそこまでに軍のクーデターや暗殺などで政権が倒れるかもしれないが、(少なくとも日本にとって)最悪のシナリオは、プーチンがウクライナを占領したまま粘ることだというのが氏の指摘するところです。

 日本が輸入する原油のうちロシアからの輸入は6%、天然ガスは9%を占めている。経済制裁でそれを止めると、1次エネルギーが6%ぐらい供給不足になり、電気料金が数倍に上がると氏は言います。

 今のところ中国は、経済制裁に対して曖昧な態度をとっているが、中国がロシアに協力すると、経済制裁はロシアよりはるかに困難となる。(台湾問題などが絡み)万が一、GDP世界第2位の中国から日系企業が撤退するような事態になれば、日本の製造業は壊滅の危機に瀕するだろうというのが氏の予想するところですことです。

 さて、だからこそ、この戦争は対岸の火事ではない。日本が経済制裁に強くコミットすることは、中国が台湾に「ロシアのような軍事介入をすると世界から孤立する」というシグナルを送って、日本の安全を守ることに繋がると氏はこの論考の最後に記しています。

 それは日本経済にとって大きなコスト負担になるし、これを機に脱炭素化を見直し、原子力を再稼動してエネルギー自給率を高めることなども考えなければいけなくなるかもしれない。いずれにしても、世界経済のブロック化は今後ますます進んでいくことになるだろうし、日本としては、ブロック化する世界経済に対応する強靱な日本経済を構築する必要があるとこの論考を結ぶ池田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。


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