「人間の最大の罪は不機嫌である」…『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』などで知られるドイツの詩人、ヨハン・フォン・ゲーテは、そうした言葉を残したとか残さなかったとか。
そういえば、私が入社したての新入社員の頃、直属の上司となった50歳がらみの係長は、だいたいいつも咥え煙草で、不機嫌そうに新聞を読んでいました。この人はよくもまあ、何でこうも機嫌悪そうなんだろう…とよく思っていましたが、当時は上司とはだいたい「そういうもの」。若い部下たちの前で威厳を保つため、(わざと)そうした態度をとっていたのではないかと思わないでもありません。
そして、それから既に40年。オフィスを見渡すと大抵の上司は皆にこやかで、部下につらく当たることもありません。人手不足で採用難の折、若手職員に退職など切り出されたら査定に影響するからか、常にWelcomeの姿勢を保つよう努力しているようです。
しかし、そこは人間のやること。いつも機嫌よくしてばかりいられるわけではありません。また、中には「表情に乏しく何を考えているかわからない」「日によって機嫌がコロコロ変わる」といったZ世代の部下たちもいて、若者の御機嫌取りに気をやむ中間管理職も多いと聞きます。
いつの職場にもいる面倒な人たち。お困りの貴方に向け、2月7日のビジネス情報サイト「DIAMOND ONLINE」に、キャリアコンサルタントの安田正彦氏が『職場の「面倒くさい人」どう接したらいい?人事のプロが教える解決策』と題する一文を寄せていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。
サラリーマンも、役職や年齢が上がるほど、部下に威圧感を与えてしまったり、話しかけにくい空気を醸し出してしまいがち。そうした中、相手にポジティブに接する方法のひとつに、「チャーミングでいる」という方法があると安田氏はこの論考に綴っています。
チャーミングとは、(文字通り)「人の心を惹きつける」「魅惑的である」ことを言う。かっこいいとか美しいとかいうよりも、虚勢を張らず自然体。いつもニコニコしていて、ちょっとした失敗もつい笑って許してしまいたくなる…そういう人に対しては、自然と親しみを覚えてしまうと氏は話しています。
その逆で、チャーミングでない、例えばいつも無愛想で愚痴や不満ばかり口にする人、怒りっぽい人や威張り散らしている人には誰も話しかけたくはない。結果、(そういう人が)自分のことを理解してもらえるはずはなく、当然相手のことも理解できない。ましてや、お互いに受け入れ合うなど不可能で、良好な人間関係を築くことなど、夢のまた夢だということです。
(氏の知る限り)残念ながら、役職が上の人ほど、年齢が上の人ほど、威圧感や話しかけにくい空気を醸し出しがちだと、氏はここで語っています。(それを「威厳」と捉え)むしろそうあるべきと思い込んでいる人もいるが、私は逆効果だと思うと氏は話しています。気さくに話しかけやすい、なんでも相談に乗ってもらえる、そう思われる上司のほうが部下の信頼を得やすいし、さまざまな情報が集まってくる。そして、それが正しい判断に繋がり、結果的にリーダーとしての成果を生み出すというのが氏の感覚です。
今は威圧的な態度で仕事をさせる時代ではないし、そういう上司には誰もついていかない。だからこそ、役職や年齢が上がれば上がるほど、チャーミングでいることはとても重要だということです。
そして、チャーミングでいることと同じくらい、良好な人間関係を築くために重要なのが「わかりやすい人間になる」とだと、氏は続けて言います。わかりやすい人間とは、考えや態度に一貫性がある人のこと。
人と接するうえで、行動や判断基準がその時によってブレブレで一貫性がないと、相手を混乱させ不安に陥れる。言うことがコロコロ変わると部下も何を信じて良いのかわからず、また違うことを言い出すのではないかと不信感を抱いてしまうと氏はしています。機嫌の良い時はなんでも「いいね」と肯定的なのに、機嫌が悪いと「それの何が面白いの?」と否定的になる人だって、もちろん周囲から人が離れていくということです。
「心理的安全性」とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態を指す言葉。自分の意見や気持ちを安心して表現するには、相手のリアクションにストレスを割くような環境は適さないと氏は話しています。生身の人間である以上、もちろん機嫌の良い時もあれば悪い時もあるが、わかりやすい、一貫性のある人間でいるためには、まずは機嫌の良し悪しを態度で示さないことが大事だというのがキャリアコンサルタントとしての氏のアドバイスです。
それでは逆に、「めんどうくさい人」や「厄介そうな人」を早々に攻略するにはどうしたら良いのか? ぶすっとしている人を見ると、「怖そうだな」「気軽に話しかけたら怒るんじゃないか」と不安に思うかもしれないが、(それほど)心配することはない。雰囲気が怖い、不機嫌そう、コワモテだという人ほど、じつは内心自信がなくて、自分を大きく見せるためにそうした態度を取りがちだと氏はこの論考で指摘しています。
だから、そういう人にこそ、積極的に話しかけてみてほしい。怖い態度が原因であまり人が集まって来ないことを、本人自身が悩んでいるかもしれないし、そんなところに親しげに話しかけてきたあなたは(大袈裟に言えば)まさに救世主だということです。
「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」「虎穴に入らずんば虎子を得ず」といったところでしょうか。一度、懐に飛び込んでみれば案外うまくいくことも多い。「チャーミングになる」というのは、そういうことなのかもしれません。
しかし、中には逆に、自分を解りにくくすることで相手の心を不安定にさせ、そこにつけ込むことで(相手を)心理的に自分の支配の下に置こうとする「マニピュレーター(潜在的攻撃性パーソナリティ)」のような人もいるようなので、その辺りは要注意。「こいつはちょっとおかしいな…」と思ったら、距離を置くのも必要な知恵かもしれません。
ま、(そうは言っても)そういうのはごく稀な話。普通の人であれば、一度打ち解けてしまえばこっちのもの。今度は向こうから話しかけて来てくれるものだと氏は言います。「話せばわかる」、王道は、そんな気持ちで臆することなく、誰にでも分け隔てなく接していくことだと説く安田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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