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♯1088 東京都のLGBT条例

2018年06月09日 | 社会・経済


 東京都の小池百合子知事が5月11日の記者会見で、性的少数者(LGBTなど)への理解やヘイトスピーチ規制などを盛り込んだ条例の制定を目指すことを明らかにしたと新聞各紙(5月12日朝刊)が報じています。

 東京都では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、いかなる差別も禁じた「五輪憲章」の理念を実現する条例を9月に開会される都議会に提案し、2019年4月の全面施行を目指すとしています。

 会見において小池知事は、「東京大会成功のためにも、ダイバーシティ(多様性)を実現することが必要」と述べたということです。

 公表された条例の骨子案では、LGBT(=性的マイノリティー)への理解を深めるため、都が基本計画を策定したうえで関係者の相談窓口を設けるとしています。また、差別解消に向けて都内の区市町村と協力するための規定も併せて盛り込まれるということです。

 LBGTに特化した条例が作られるのは、都道府県レベルでは今回の東京都が初めての事例です。今後、パブリックコメントや都議会などにおいて議論が深められることになりますが、世代や個人の心情などを背景に様々な認識がある問題だけに、全国の自治体もその行方を(固唾をのんで)見守っていることでしょう。

 LGBTに関しては、2011年に国連人権理事会が性的指向や性自認に基づく暴力行為や差別に重大な懸念を示す決議を採択して以降、2015年にはアメリカの全ての州で同性婚に法的な保証が認められるようになったり、ベトナムで同性婚を禁止する法律が廃止となったりと、世界でも少しずつ(LGBTの権利を)保護する法律が整えられてきています。

 現在では、オランダ、ベルギー、スペイン、カナダ、南アフリカ共和国を含む24カ国で同性婚が合法化されているほか、オーストリアや台湾でも(遅くとも)2019年までには同性婚が認められることが決まっています。

 こうして、次第に法的な保護が確立されつつあるLGBTの人権ですが、日本ではLGBTという言葉自体、(その定義も含め)まだまだメジャーとは言い難い存在かもしれません。

 改めて整理すると、性的少数者を指す「LGBT」は、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の身体の性別と性自認が異なっていたり、違和感を持っていたりする人。また身体の性別とは異なる性別で生きる人、そう望む人。性同一性障害も含まれる)の頭文字から取られている言葉とされています。

 さらに世界的には「Xジェンダー」(身体的には男性または女性だが、そのどちらでもないと感じている人)、「クエスチョニング」(自分のセクシュアリティーが分からなかったり、迷ったりしている人)、「アセクシュアル」(無性愛。恋愛や性的な感情を誰に対してもあまり感じない性的指向のこと)など、さらに細かなセクシュアリティー(性のあり方)に分けて扱われる場合などもあるようです

 さて、博報堂DYグループの専門シンクタンク「㈱LGBT総合研究所」が2016年に実施したマーケット調査によると、日本でLGBTに該当する人は全人口の5.9%程度とされ、性的マイノリティ全体では8.0%(約960万人)に及ぶと推計されています。

 これは、インターネットを使って20〜59歳の個人8万9366人を対象に実施された調査の結果に基づくものであり一定の信憑性は確保されていると思うのですが、それにしても性的マイノリティが「左利き」や「AB型」の人よりも多い割合であることは、多くの人に「意外」な印象を与えるかもしれません。

 見方を変えれば、我々が日常生活の中でそれに「気が付いていない」こと自体、現在の日本では性的指向や性自認を理由に生きづらさを感じても「声を上げずに我慢している」多くの性的マイノリティがいることを物語っているのでしょう。

 5月16日の毎日新聞に掲載されていた70人のLGBTに対する取材調査によれば、性的マイノリティに対する社会の「理解」に関して、約8割に当たる54人が、「報道の中で誤った用語の使い方や説明がされている」と感じたことがあるとしています。

 「同性愛とトランスジェンダーの違いは、同性愛は誰を好きになるか(性的指向)というもので、「トランスジェンダー」は自分で自分の性をどう思うか(性自認)というもの。それぞれが抱える問題や社会に求められる対応も異なるため違いをしっかり理解してほしい」という意見や、「(正式な呼称のレズビアンではなく)レズと言われた。差別用語であることを知らなすぎる」「私には同性を好きになるなんて理解できないと笑われた」など、無理解による無自覚な差別的発言を問題視する意見も多かったとしています。

 また、回答者の約半数は「特定のイメージを押しつけられた」経験があるとしており、「LGBTはかわいそうな人たちではないと説明したのに、理解してもらえなかった」「LGBTの人は優秀といったポジティブな決めつけが気になった」という声もあったということです。

 一般にLGBTの問題と言えば、周囲の人間に性的マイノリティであることを知られたりカミングアウトしたりすることによって所属集団の中で奇異な目で見られたり、差別を受けたりなどの人権が侵害される状況が生まれる場合が多いようです。

 また、結婚や養子縁組、相続などの社会制度上の不備に加え、制服などの衣服の問題や着替え、トイレなどの性自認が顕在化する場面でのトラブルもしばしば指摘されているところです。

 個人の宗教観や固定的なモラルに加え、セクシャリティをからかいの対象とすることなどによるLGBTへの人権侵害については、最近のメディアの取り扱いの変化などもあって(少しずつではありますが)理解が深まっているような気がします。

 一方で、LGBTを「弱者」や「守るべき存在」として囲い込むことに対する異論も様々な立場の人々から指摘されていますが、少なくとも現在の日本は、誰もが(例えばLGBTとしての)自らのアイデンティティをさらけ出し、豪快に笑い飛ばせる強さを持てる環境にあるとは思えません。

 そうした中、いくつかの制度面の問題については、(今回の東京都の条例などにみられるように)解決に向けた動きがようやく始まったところと言えるでしょう。

 一方、(例えば制服、スポーツなどの)一般に性別によって区分されている社会的な取り扱いに特別な配慮を加えるとか、(トイレや浴場など)施設面での新たな工夫に関しては、一定のコスト増が見込まれるだけになかなか進まないのが現実かもしれません。

 性的マジョリティにしてみれば、「大した違いじゃない」「なんでそんなに拘るんだ」「めんどくさい」と感じる向きも多いかもしれません。また、昨今では、セクシャリティそのものにそれほど興味のない人も多いでしょう。

 問題を抱えていない人に問題の「存在」そのものが見えないのは仕方がないことですし、ダイバシティ社会を実現するには、(これまで近代社会が培ってきた)人権に対する感覚と想像力を最大限発揮して、そこにある「見えない壁」を乗り越えなければならないのは自明です。

 「2020年のオリンピック開催が、日本のダイバシティの契機となった」と後の時代に語られるよう、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)」と名付けられた今回の都条例が大きな話題を呼び、全国に広がっていくことを願って止まないところです。

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