MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1087 就職氷河期世代のリスク

2018年06月08日 | 社会・経済


 4月7日発売の「週刊ダイヤモンド」誌では、『新・階級社会の不都合な未来』と題する記事において、就職氷河期世代の高齢化に伴う社会保障制度の危機の到来に警鐘を鳴らしています。

 このまま何も手を打たなければ、30年後の日本は独身で低収入の高齢者であふれかえる。日本の財政は年金ではなく生活保護で破たんする可能性があると、この記事は指摘しています。

 社会保障費の増大による財政の圧迫に関しては、将来に向けこれまでも様々な予測がなされてきました。政府も「社会保障と税の一体改革」を唱え、年金や医療、介護費用の増大に備え手を打ちつつあるところですが、そこにはもう一つの大きなリスクが見落とされていると記事は指摘しています。

 こうした議論で使われる試算の多くは、人口ピラミッドの変化に基づく将来推計が様々に用いられていますが、実はそこには「世代の質の変化」の視点が抜け落ちていることが多いと記事は指摘しています。

 現在40代に突入しつつある就職氷河期世代は、それまでの世代と違って非正規雇用者が多く、所得水準も目立って低い。老後の生活資金を蓄えるゆとりもなく、高齢化に伴って(これから先)生活保護に頼らざるを得なくなる人が増大するリスクをはらんでいるということです。

 現在、概ね35~44歳に達している就職氷河期世代では、男性は前の世代と比べ正社員が48万人も減った一方で、非正規雇用が40万人、無業者が4万人も多いことが判っています。一方、女性の社会進出が進んだことにより正社員または非正規雇用で働く女性は80万人増え、無業者は(それまでの世代よりも)87万人減少しています。

 これは、前の世代に比べて(子育ての終わった)専業主婦層が労働市場に参加し始めたのが大きな理由と考えられていますが、それは裏を返せば、夫だけの収入では世帯を支えきれなくなったことの表れでもあるというのが記事の認識です。

 就職氷河期では、男性の稼ぎは減ったもののそれを補って働く女性が増えたことで、(データ上)世代全体の生涯賃金はそれまでの世代との間で遜色はありません。

 しかし、国の財源という視点で言えば、収入が多く高い所得税が見込める男性社員が減ったことで、就職氷河期世代が生涯に支払う所得税の合計額は95.8兆円と、前の世代よりも1.5兆円程度減少すると推計されているということです。

 こうして税収が先細りしていく中で、就職氷河期世代の高齢化により無年金者や貯蓄のない高齢者が増えてくる未来が、いよいよ現実味を帯びてくるということでしょう。

 就職氷河期世代の未来について、セーフティネットの維持に要するコストを(様々な要素を踏まえて)試算すると、極めて厳しい状況が見えてくると記事は説明しています。

 推計値ではありますが、いずれ65歳以上となる就職氷河期世代の「生活保護予備軍」はおよそ147万1千人。現在の生活保護受給者は全世代で213万人ですので、就職氷河期世代が高齢期に突入すると、その7割に匹敵する人数が(新たに)生活保護に依存する未来がそこに生まれるということです。

 その費用は一体いくらかかるのか?

 大都市部の高齢単身世帯の生活扶助費は、現在、月額で7万6千円。現時点の65歳での平均余命は男性で19.6年、女性で24.4年ですので、掛け合わせれば29.9兆円が必要になるという計算になります。

 勿論、この金額は「生活扶助費」だけの数字なので、生活保護費の48%を占める医療扶助費や住宅扶助費などを考慮したものではありません。雇用環境の悪化を引きずった就職氷河期世代では、税収減と生活保護費増大のダブルパンチで、潜在的なコストは(恐らく)30兆円を超えるだろうというのが、この問題に対する記事の見解です。

 当然のことながら、(今まで見てきたように)従来から論じられている年金や介護、医療などの社会保障費部分はここには含まれていません。

 本人たちの自覚の有無は別にしても、時代の流れの中で経済状況に翻弄された彼らの存在が、日本の将来に(よどみのように)ずっしりと影を投げかけることになるのはどうやら事実のようです。

 彼ら就職氷河期世代への対応の遅れが、日本の財政破たんへの歩みを加速させていると記事は結ばれています。

 そうしたリスクを少しでも軽減させるため、彼らの世代の正規職員化や生活の安定に向けた積極的な政策を、(今の日本は)なるべく早急に繰り出していく必要があるということでしょう。