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♯1094 コミュニケーション技術以前の問題

2018年06月17日 | 日記・エッセイ・コラム


 天気の良い朝など、仕事前のコーヒーをテイクアウトするために、オフィスに向かう途中にあるコーヒーショップに立ち寄ることがよくあります。

 最近ではコンビニのコーヒーも随分とおいしくなったと言われていますが、(例えチェーン店であっても)なんとなく専門のお店の方に気分が行くのは、私が(少し)古い世代の人間だからかもしれません。

 行きつけのお店では、何人かのアルバイトさんが曜日ごとに交代でカウンターに入っています。20代(たぶん)の女性を中心に、高校生のような若いお兄さんから子育ての終わった(とおぼしき)パートの女性まで、慣れた人も慣れない人も何人かが日替わりのシフトで入って「いらっしゃいませ」と迎えてくれます。

 こうして、何日か続けて同じ場所で同じ時間帯に(例えば「ご注文は?」「レギュラーコーヒーをテイクアウトで…」などと)同じやり取りを繰り返していると、同じ制服を着ているアルバイトさんでも人によってずいぶんと対応が違うことに気づきます。

 当然、仕事に入る際には詳細なマニュアルなどがあって、カウンターでの受け答えはそれなりに決められているのでしょうが、注文の確認の仕方や商品の入った紙コップの取り扱い、お客さんへのお釣りの渡し方まで細かなところにそれぞれの人柄が見て取れます。

 なかでも、注文のやり取りをする際の表情には随分と違いがあって、しっかり目を合わせる人もいればあまり合わせようとしない人もいるし、目を合わせた瞬間に表情を少し緩める愛想のよい人もいれば、事務的に無表情のままの人と様々です。

 毎回通っていると結構顔なじみになることもあって、黙って(いつもの)ブラックのままで包んでくれる人もいるし、毎回律儀に「ミルクとお砂糖はどうされますか?」と聞いてくれる人もいる。中には顔を見ただけで(注文もしないうちに)淡々と作業に入る店員さんもいます。

 こうして大勢の従業員を(消費者のサイドから)見ていると、サービス業に「向いている人」と「向いていない人」というのは否応なくいるのだなと、改めて感じさせられます。

 こうしたコミュニケーションの基盤となる能力は社会を生き抜く上ではかなり大切な部分だと思うのですが、何故かあまり学校では教えてくれません。

 もちろん、社会に出てからOJTなどのトレーニングで身につく部分もあるのでしょう。しかし、(経験上から言えば)本人の資質や生まれ育った環境などによって、その能力はある程度決まってしまうのではないかと改めて考えるところです。

 流行語の一つとなった「忖度」は、相手が何を考えているか、何をしてほしいかを推測して(先回りして)行動を起こすこと指す言葉で、そうした行動をとるためには相手の気持ちを「察する」能力が求められます。

 最近は悪い意味で使われることの多いこの言葉ですが、一定の「忖度」は人間社会を円滑に生きていくためには欠くことのできない能力の一つとも言えるでしょう。

 例えばコーヒーショップであれば、注文が遅れてしまったお客さんには「お待たせしました」の一言を加えるとか、汗をかいて飛び込んできたお客さんにはおしぼりを二つ出すとか、子供連れのお客さんは喫煙室から離れた席に案内するとか、ちょっとした「思いやり」や「気配り」がサービスの基本にあると言えます。

 一方、発達障害のひとつとして広く知られる「アスペルガー症候群」は、相手の表情や場の空気などから相手の考えていることを「察する」ことができない対人関係の障害を指すものです。

 アスペルガー症候群の人は他者と気持ちを通じ合わせることが能力的に困難であるため、「忖度」ができないばかりでなく、社会生活全般にわたって問題が生じることが多いとされています。

 対人コミュニケーションは非言語的な視覚・聴覚・触覚などの様々な感覚機能を媒介としているため、(それ以前の問題として)相手との良好な関係を構築しファースト・コンタクトを容易にするための「お作法」のようなものがあるのを忘れるわけにはいきません。

 まずは目を合わせ、相手のことを「受け入れています」という意思を示すだけのことでも、コミュニケーションは随分と違ってきます。

 「やあやあ…」と心からの笑顔で握手をするだけで、「私はオープンマインドです」「例え意見は一致しなくとも、きちんとお話を伺う心づもりはできています」ということを言外に添えることは可能でしょう。

 ちょっとした簡単な仕草が身に付いているかどうかで、人の印象は随分と変わるものです。そしてそれこそが、個人の「キャラクター」を形作る大きなファクターのひとつと言えるでしょう。

 とは言え、なかなか接客が上手くできないと考えるアルバイトさんも多いと思います。実社会におけるコミュニケーションとはそうしたいくつかの「決まりごと」の上に成り立っていることを、人はいつ覚えればよいのでしょうか。


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