【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会副会長 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

火神主宰 俳句大学学長 Haïku Column代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

中村ひろ子 句集『ドロップ缶』

2019年06月22日 22時42分24秒 | 句集
中村ひろ子 句集『ドロップ缶』

〜人柄と一体化した俳句〜

永田満徳

『ドロップ缶』は平成9年から平成30年までの作品を収録した中村ひろ子さんの第1句集である。
中村ひろ子さんは熊本大学文学部の頃から見知っていて、首藤基澄先生を主宰とする熊本大学俳句会に参加していた学生の中では最も熱心であった。ご主人の転勤に伴って仙台、川崎、佐賀と移り住んだにも関わらず、首藤先生との縁によって「火神」との繋がりを保ち続けた。その結果、「一度手放した俳句」(あとがき)が句集という形で一冊に纏められたことは誠に喜ばしい限りである。
 ひろ子俳句については、すでに「火神」58号の特集で「生の実相にアプローチする俳句」と題して述べている。そこで触れた内容は『ドロップ缶』でも変わらない。
その特集では、ひろ子俳句の特色を「テーマのバリエーションの広さである。子供俳句から内面重視の俳句、時事俳句、父母を含む故郷俳句まで、幅広い素材を句にしている」として、ひろ子俳句は「『火神』の標榜する『自然・生の実相にアプローチする俳句』の実践者としての道を確実に歩んでいる」と結んでいる。

   小さき手でドロップ缶振る火の用心

掲句は句集の題にふさわしく、ひろ子俳句の良さを発揮した句である。

   盆祭若さは分をわきまえず

「火の用心」を真似て「ドロップ缶振る」幼子にしろ、若さのままに「盆祭」に興じる若者にしろ、それぞれの仕草、姿態を切り取って、写生の目の確かさを示している。

   金魚愛づ逃げ道あらば遮りて
   日脚の伸ぶ諸手挙げをる招き猫

両句とも俳諧味のある句である。「金魚愛づ」と言いながら、「逃げ道」を塞ぐことへの揶揄は「諸手挙げ」て客を招き入れようとする商魂たくましさへの皮肉の視点と似通うものがあり、人間観察の鋭さが垣間見える。

   春待つや簡単な顔持つ土偶

確かに、土偶は目、鼻、口だけでようやく人であることが分かる。当たり前の事実を句にしただけと見過ごしてしまいそうであるが、しかし「簡単な顔」と表現されると、かえって、土偶は無駄を削ぎ落した抽象的な現代彫刻に見えてくるから不思議である。対象を的確に把握する詠みぶりである。
 ところで、これまでの俳句でも充分にひろ子俳句の良さに触れることができたが、それ以上に、ひろ子俳句の真骨頂は次のような句に現れている。

   ばつた飛ぶ明日の東西失はず

に見られる向日性は言うに及ばず、
   春泥を蹴散らし西へ西へ行く
ますらをとなりたし猪の肉を食ふ
などの、「春泥を蹴散らし」てゆく姿は「ますらをとなりたし」という措辞に繋がり、男性的で、雄々しささえ感じられる。

   風死すや幽霊画見に上野まで
   春画見て吊し柿見て神田川
ともに絵画が素材であるが、「幽霊画」をわざわざ見に行く度胸の良さはこちらがいささか顔を赤らめる「春画見て」という措辞をいとも簡単に言ってのける大胆さと重なる。「吊し柿」と並置したことで、なんともおおらかな句になっているではないか。
このように述べてみて、浮かび上がってくる俳句の雄々しさ、おおらかさはひろ子さんそのものである。ひろ子俳句の良さはひろ子さんの人格、つまり人柄と一体化した句にあると言っていい。
今後は「自然・生の実相にアプローチする俳句」を踏まえることはむろんだが、テーマを絞り込み、ひろ子俳句の良さを引き出し押し出していくことによって、更なる飛躍が期待できるだろう。         

「火神」66号より転載

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向瀬美音句集「詩の欠片」発刊

2019年03月13日 06時45分55秒 | 句集
俳句大学国際俳句学部よりお知らせ

~向瀬美音句集「詩の欠片」発刊~

永田満徳 「国際季寄せ」解説の一節(「詩の欠片」所収)
◆この「国際季寄せ」をテキストとして、あるいはHaikuの発想の源として使ってほしい。
◆今後、俳句大学俳句学部は、「Haiku Column」で「国際季寄せ」から提案した季語のHaikuを募集して、その秀句を例句として取り入れて、季語の意味を添えた「国際歳時記」を作ることを目標としている。

【朔州出版新刊ご案内】
●向瀬美音氏がFacebookに「HAIKU Column」を起ち上げて3年。イギリス、フランス、イタリア、ベルギー、アメリカ、カナダ、インド、台湾など、現在の会員数は1500人を超える。
●国際俳句の一翼を担い、世界の俳句愛好者を相手に毎日句会を実践指導する俳人の待望の第一句集。
●日本語、英語、フランス語による167句を収録。
●巻末には「国際季寄せ」約450語を同時掲載
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今村征一氏共鳴句

2013年07月31日 07時49分56秒 | 句集
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「寒祭」(かんまつり)

2013年06月30日 05時09分04秒 | 句集

http://www.kumamoto-bunkanokaze.com/details_book/nagata/index.html

・ 著者 永田 満徳 (ナガタ ミツノリ)
・ 発行所 文學の森
・ サイズ 四六判上製・カバー装
・ ページ数 269ページ
・ 価格 2,800円(税込み)
・ 発行日 平成24年9月27日
・ 申込先 くまもと文化の風ドットコム
TEL096-345-6209

永田 満徳 プロフィール
1954(昭和29)年 人吉市生まれ
1987(昭和62)年 「未来図」入会
1995(平成 7)年 「未来図」新人賞、翌年同人
2003(平成15)年 俳人協会熊本支部事務局次長(2010(平成22)年まで)
2005(平成17)年 熊本県文化懇話会会員
2009(平成21)年 日本現代詩歌文学館振興会評議員
2015(平成27)年 俳人協会熊本支部事務局長

共著  『漱石熊本百句』(創風社出版)
『新くまもと歳時記』(熊日文化出版賞受賞)
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『寒祭』自選15句

2013年05月30日 07時07分10秒 | 句集
自薦15句
(レトリックを駆使した句集)
墓場よりをんな出でくる桜かな
こそばゆき地球ならんか潮干狩
山茱萸やほつれほつれの黄なる夢
犀の角この世の春を突いてみよ
蓮の葉や日出づるくにの日を盛りて
あめんぼに雨ならぬ雨ふりだしぬ
原城趾日暮れの蟬の地鳴りとも
いにしへはいまぞと落つる那智の滝
通勤車月の出づれば旅となる
青春は霧より生れて霧に消ゆ
山の気のいきほひに鮎落ちにけり
大いなる御空を背負ひ藺草植う
タクシーに放り込んだる霜夜の身
筋肉はをのこの衣装寒祭
日本てふ平たきものよ餅を食ぶ
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