11月上旬に上京――。
久々に都内を自由に歩きまわりました。
――あれ?~ミツマメ君じゃないの?…そうよ、ミツマメ君よね!
お久しぶり!何年ぶりかしら~。え?自分のことよくわかったな、ですって! そりゃわかるわよ。だってミツマメ君、背が高くてサ。歩き方や仕草、いまも昔もちっとも変っていないんだもの。ホラ、毅然と前を向いて颯爽と歩いているじゃない…。え?毅然とじゃないって~内心ビクつきながら何かに追われた気持ちで歩いているの?ハハハ…相変わらずだわ。
【A①】代々木上原駅は、いまでは高架上にホームが設けられています。

――でも何で、黒のニット帽とマスクつけて歩いてるの。おかしいわよ~。さては誰かに見つからないように変装しているんだ。でもね、かえって目立つのよ。むむ。さてはやましいことして世間様に顔向けできないことしてんだ。え?違うの…。
あ、この子ね。わたしの孫よ~そしてミツマメ君の孫でもあるのよ! ほら、お祖父ちゃんにちゃんとご挨拶しなさい。…ボク、身に覚えがないって?~ムホホホ。ほら~あの日、四人おコタでトランプした晩よ! ミツマメ君、コタツのなかでわたしの足さわったでしょう…よく覚えているなぁ~って。そりゃ覚えているわよ~何が起きるか期待してたのよ。うふ。でも何もなかった…だから身に覚えがないって言うのね。う~む。そういうことにしておきましょう。ふふふ。
これから何処に行くの? はぁ~美術館へ『ダリ展』観にね。あれ?今日は月曜日だから美術館、お休みだよ。…六本木の国立新美術館は開いてるの。ふ~ん。――寒いわね。どこか入らない?
【A②】同駅は、小田急線と東京メトロ千代田線が相互に乗り入れています。

――ん~わたし、レモンティとショートケーキ。この子、プリンが好きなの。それじゃ~プリンアラモードたのもうかしら。いま5歳なの。うえにお兄ちゃんがいるのだけど今日は学校よ。母親がお勤めしているから、わたしが子守ね。え?わたし、昔とちっとも変らないって。嬉しいわ。…でもオバぁちゃんよ。だってさ。豊満なムネも最近しぼんじゃって瓢箪状態よ、ん。な~に?見たことないからわかんないって…ハハハ。
『君の名は。』のように、ミツマメ君とわたしの身体が入れ替わるわけじゃなし。わたしはわたし、そのままで60年余りを生きてきたの。これからもね…。
ミツマメ君。どこに住んでるの。…西の方ね、二子玉川?~ちがうの。それじゃ登戸――違うのか。西といえば、神奈川?う~ん、それじゃ静岡…あとは極楽浄土かぁ~キャハハ。だって、わたし静岡から西へ行ったことないの。
いま何しているの?…え!数少ないガールフレンドから生き血を吸われ心身ともにへたれ、かろうじて生きている?…可愛そうに。そうよねぇ~ミツマメ君って昔から、モノごと頼まれるとイヤと言えないんだものね。ふふふ。
え?ダンナは何しているのかって。…わたし独身よ。ほんとよ。まぁね。オンナは60年生きていると、いろいろあるのよ。ふぅ~。
【A③】同じホームで小田急・メトロ線の乗り換えができます。

――『ダリ展』観にいきたいなぁ。この子の子守で、どこにもいけないのよね。そうだ!ミツマメ君。いまからこの子、預かってくれない? わたしが独りで『ダリ展』観に行ってくるからさ。…でもねぇ~ニット帽とマスクじゃね。アブナイおじさ~ん、かな。職務質問されちゃうわ、誘拐じゃないかってね。ホホホ。
でも、わたしが独りで絵を観たりしていたらナンパされちゃうかしら…それも心配だわ。え?蹴っ飛ばしちゃえば、ですって。とんでもない!わたし、これ幸いと相手についっていってしまうわ…そんなわたしが怖いの。ホホ。
ダリって、ほら、時計がグニャッと曲がっていたり虎が画面から飛び出しそうな絵を描くのでしょう。ミツマメ君のことだからダリの絵みながら「この女性のモデルはダリだ?」な~んて言うんでしょうね。はは。
ダリの絵、シュールリアリズムというのね。シュールな絵というけどさ、この世の中、すべてシュールよね。だって、わたしたちが住んでいる地球って宙に浮いているのでしょう?そして、わたしがここにいてミツマメ君とこうして久しぶりに話していることが、シュールだもの。
【B①】お隣の代々木八幡駅は、昔と変わらぬたたずまい。(新宿方面ホーム)

――考えてみると不思議ね。孫と一緒にいると、ふと考えるの。この子たちが成長して大人になって恋をして子供を産んで…。そのことが何世代も続くのよね。
「時が流れる」というでしょう。でも時間って流れているのかしら。だって、ここでミツマメ君と久々に会っても、時間が流れていたなんて考えられないわ。そのビルの片隅に、この数十年ず~っと隠れていてね。わたしが来るのを待っていて、ひょっこり現れたみたいで。。。。シュールよね。――またお会いしたいわ。二人きりでね、うふ。連絡先、教えてくださらない…。
【B②】でも、駅舎の改修工事が始まっていました。(下北沢方面望む)

【B③】代々木八幡駅前の光景は大きく変わっています。

彼女と久々に会ったよなぁ。――二階のパーラーで独り語る彼女の唇から、ふと眼を外してビル群の谷間から沈もうとする太陽の残影に気を奪われ、「オレの住む西の空に比べ陽の沈む時間帯、ずいぶん早いなぁ」とボンヤリ考えていました。
「――連絡先、教えてくださらない…」という声に、われに返って彼女の方に向き直ると。彼女の姿が見当たらない、孫の姿もない。。。。。。。
そしてここに。
国立新美術館一階ロビーの大きな窓からそそぐ秋の陽射しか、ありません――。
