
木造校舎を背景に校庭でバレーボールに興じる女生徒たち。それを職員室から見守る教師――。
私が代々木高校を撮った写真のなかで好きなカットの1枚。1967年6月頃の撮影です。写真全体に昭和40年代初期の、ゆったりとした時間の流れる雰囲気があります。それは背景の木造校舎であり、女生徒たちの服装(制服)や仕草から醸し出される光景でしょうか。
当時、学校で職場で少し時間ができると僅かなスペースを利用して、皆でバレーボールに興じていました。数年前の東京オリンピックで「東洋の魔女」といわれた日本の女子バレーが初めて金メダルに輝いた余韻があるのでしょうか、主に女性が中心だったかと思います。これといって娯楽のない時代でしたが、ボールひとつで皆と夢中になれる。といってもただボールを高くあげて落とさないように受け止めるだけの運動。中世の貴族が興じていた鞠蹴りに似たものがあります。
この写真の背景となった木造校舎が、この年の秋から解体され新たな校舎が建てられることになりました。このことを私が初めて耳にしたのは5月。当時所属していたクラブ活動の「美術部」部室で、部長を務めていた上級生の女生徒から教えてもらいました。
この時は、まだ具体的なスケジュールは決まってなかったようですが、2学期になると<第1期工事>として南棟(平屋建て)と西棟の一部が解体されることが明らかになりました。私たち2年午前部は西棟で授業を受けていましたので、北棟へ移ることになりました。
【下図】当時の校舎は井の頭通りに面した「北棟」から裏路地に面した「西棟」、さらに平屋建ての「南棟」と棟続きに<コの字>型の配置となっていました。西・南棟を主に<三部制>が用いており、北棟を商業科など<夜間部>が使用していました。

解体に伴い<三部制>が北棟の教室を使うことになり、<第1期工事>完成まで西・南棟で使用していた机やイス類を北棟教室の後方に固めて積上げていました。
下の【写真】は、なにも積上げた机やイス類を撮ったわけではなく、被写体はあくまでも女生徒であります――何で強調するのかですって?…ドキッ。

入学した当初から木造の校舎は、床材は軋み冬は窓ガラスから隙間風が吹きすさぶという授業環境は決して良好とはいえませんでした。でも私たちの世代は、戦後の何も無い時代を過ごしてきていたので校舎が老朽化していても、それほど気にはなっていませんでした。
確かに校舎が新築されて授業環境が整うというのは喜ぶべきなのでしょうが、冒頭の写真の光景のように、何となく、ゆったりした時間の流れが止まってしまうような感触を受けたものです…。