「起業したい人がMBAに行って意味があるのか」と良く問われるので、私なりにまとめておこうと思う。
「MBAに行く意味があるか」という一般論は不毛だと思うけど、対象を絞ればそれなりに答えられるところもあると思うので。
実際、多くのMBAには「起業したい人」がかなりの数、来ている。
また、MBA側も起業を意識した教育を提供し、積極的に宣伝にいそしんでいる。
将来、少しでも起業したいと考えている人が、MBAに行った方が有利になるのか、MBAがどんな役に立つのかと不安に思うのは、当然かもしれない、と思う。
はっきり言って、起業のアイディアが固まっていて、一緒に起業する仲間もいて、資金など起業のめどが立ちそうなら、MBAなんて行かず、すぐに起業すれば良いのだと私は思う。
だけど、それって稀有な才能に恵まれた人だろう。
普通の人は「将来は起業したい」と思っていても、会社勤めしながら、起業のアイディアを考えたり、仲間を見つける暇は無い。
かといって、仕事を辞めてプーになるのはリスクが大きい。
起業したいけど、時間無くて今すぐには出来ない、と言う人がMBAに行く意味は、だいたい次の6つに集約されるのではないか、と思う。
1) 同じ志で起業したいという仲間を探しに行く
MBAに行く意味として「ネットワーキング」が良く挙げられるが、起業したい人にとってネットワーキングとは二つの意味に分かれる。
ひとつは、一緒に起業できるような仲間を見つけに行くことだ。
起業を一人でやるのは珍しく、複数の仲間が集まって起業するケースが圧倒的に多いらしい。
まず、起業のアイディアって、一人で考えて出てくるものではない。(そういう人もいる)
やっぱり一緒に議論してくれるパートナーがいるのは心強い。
それに、会社を興すには、ビジネスモデルを作り、資金を調達し、技術など必要なものを確保し、人材を確保し、などさまざまな方面の知識やスキルが必要となる。
これらを一人でやれる天才は少なく、違うスキルを持った何人かが手分けして行う方が良い。
とはいえ、普通に会社勤めしていたりすると、こういう仲間に会えることは少ない。
技術屋だと、周囲は技術屋ばかりで、経営や財務が分かる人になかなか出会えないかもしれないし、その逆も然り。
普通に大学院に行くと、通常はアカデミアに行きたい人の方が多くて、起業したい人が多いとは限らない。
一方、MBAは、最近ことさらアントレを宣伝していることもあり、起業したい人が集まっているから、普通の大学院より仲間に出会えるチャンスは大きい。
実際、私のMIT Sloanの同学年の友人で、クラスメートと一緒に起業したケースは10組以上いた。
2) ベンチャーキャピタルとか法律家とか、起業に必要なお金や知識を提供してくれる人たちとの繋がりを作りに行く
もうひとつの「ネットワーキング」がこれ。
日本のMBAでもだんだんそうだと思うけど、MBAにはベンチャーキャピタルや、大企業のCVC、法律事務所などが群がっている。
彼らとしては、将来成功する起業家(金のなる木)を見つけようというわけだが、起業したい学生としてこれを利用しない手はない。
この意味でも、普通の大学院よりはMBAなど起業家育成をやってるところが有利。
一方、普通に企業に勤めていて、VCやエンジェル資産家と知り合うのって結構困難だ。
特別にそういう知り合いでもいない限り。
さらにMBAにてビジネスコンテストなどを主催する側に回ると、VCが何を以って起業家を評価するのかを知ることが出来る。
例えば、私もMITのビジネスコンテストの主催側にいたとき、何十組ものビジネスアイディアの企画書を、VCやエンジェルの人たちが喧々諤々議論しているのを、横で議事録を取ったりする仕事をやった。
こういう経験は、後で自分が選ばれる側になったとき非常に役に立つ
3) 起業のアイディアを考える時間を得る
学生には時間がある。
一方、仕事をまじめにしていると、起業アイディアなんて練ってる時間もあまり無く、疲れて帰って寝るのが普通だ。
MBAは特に時間がある。
プロフェッショナルスクールであるMBAは、論文を書く必要は本来無い。(私は書いたけど)
だから、普通の大学院よりもその分、他の事に時間が使えると思ってよい。
私個人は、起業家ではなく、起業家を産みやすい社会インフラとかへの興味が強かったので、イノベーション関連の勉強にほとんどの時間を割き、論文も書いたけど、
周囲で起業を目指していた友人たちは、授業の予習なんて最低限で終わらせ、とにかく起業のアイディアを固めるのに時間を割いていた。
4) 起業に役に立つ知識やスキルを身につける
基本的な財務や、特にキャッシュフローが不足しがちな起業したての時の財務。
基本的な経済の原理、特にそれを技術系などの起業家が多い分野での意思決定にどう使えるか。
コミュニケーションも基礎をやってから、VCとのコミュニケーション、起業時のセールスのあるべきコミュニケーション方法。
基本的な経営戦略の考え方、特に起業時のビジネス戦略。
起業に関する法律、会計規則。
このあたりもMBAだからこそか。
最近のMBAは起業家育成に力を入れているので、いわゆる財務や経済、経営の基礎だけでなく、起業に応用した例を授業でも積極的にやる。
学校の勉強なので、すべてが実務に役に立つとは限らないが、
学校の勉強らしく、とても困ったときに思い出して、役に立てることが出来る。
5) 本当に自分は起業がしたいのか、向いているのかをじっくり試すことができる
人によっては、今の仕事は違う、と思っていても、本当に自分が起業に向いているのか分からないというモラトリアムな向きもあるだろう。
または、今すぐに起業するのが良いのか、一度ベンチャーで自分の力を試してから起業するのが良いのか迷う向きもあるだろう。
MBAは「転職予備校」な側面も大きく、いろんなプロジェクト型の授業やインターンシップの機会もある。
たくさんの企業-それこそベンチャーや元ベンチャーの大企業やベンチャーキャピタルまでもがリクルーティングにもやってくる。
起業以外の職業の可能性を考えて、面接を受けたり、授業やインターンを経験して、
自分の起業への適正を絞り込んでいくのも、起業したい人がMBAを使うひとつの方法だ。
6) 色々がんばったけど、起業できなかった場合のリスクヘッジ
実は、起業を目指してる人にとって、これがMBAの意味として一番大きいんじゃないか、という気すらする。
起業するのに時間がほしいからと、仕事を辞めてプーになるのはどの国でもリスクが大きい。
「この2年間はMBAに行ってました」となっていれば、履歴書はとてもきれいだ。
また「転職予備校」たるMBAであれば、2年間という期間中に起業できなかった場合でも、最悪他の企業に就職するいろんな道がある。
トップスクールであればあるほど、リスクヘッジが出来る程度は大きい。
以上。
色々書いたけれど、それでも起業したい人がMBAに行く意味があるかは、本当に人による。
そもそも海外のMBAは高い。
その授業料に見合うだけのものが得られるかは、今自分に何が足りないかによるし、その学校のカリキュラムや相性などもある。
自分の状況と行きたい学校の状況を考えて、良く検討すべし。
最後に、この辺は議論の余地があるとは思うけど、個人的にはアメリカで起業したい人、起業した後アメリカを市場としたい人はアメリカに行く方がよいし、
日本で日本人を相手に、日本のVCの力を得ながら起業するなら、日本のMBAに行く方が良いと私は思う。
アメリカのビジネススクールにいても日本で起業したい人はそんなに見つからないし、日本のVCも来ない。
日本のビジネススクールにいても、アメリカのVCは余り来ないし。
どこの学校でもそうだけど、自分がやりたいことに見合うものが得られる学校はどこか、慎重に考えて選択するのがよいです。
私の主観ですのでご気分を害されたらすみません。
>個人的にはアメリカで起業したい人、起業した後アメリカを市場としたい人はアメリカに行く方がよいし、
日本で日本人を相手に、日本のVCの力を得ながら起業するなら、日本のMBAに行く方が良いと私は思う。
とのことでしたが、アジアで将来起業したい人にとっては如何でしょうか?香港やシンガポールのMBAプログラムも世界的に評価されているものの、国際的なネットワーク、知識・スキル面の質、MBAブランドなど考えるとやはりまだ米国のMBAの方が強いのかな、と私は感じていますが、宜しければご意見お聞かせください。
今回のブログで私にとってMBAは無縁だと思っていましたが、改めて自分にとってMBAに行くことは何か?と考えることができる、よい機会ができました。
Lilacさんのブログに感謝です。
会社勤めの時にMBA行こうと思ってましたが、資料集めたり、英語や経営の勉強したり、先輩にあったり、いろいろと社長にあったりとかした結果、勉強する時間があったら、社長としての経験積んでいる方が、失敗しても成功してもどちらでもなくても、その経験はMBAでは教えてくれないし、意志決定をするのが立場が違うとぜんぜん違うし、部長や専務を10年や20年やっても社長経験は0だから起業した時に困るでって。社長1年生だから早いことして経験積んでおいたら失敗しても社長の視点を経験したものと、感じているものとの差は雲泥の差があるで。だからそういう人材は重宝される。やとけって後押しされて今にいたります。
起業して約10年ですが、やっぱりMBAで勉強したいところもあります。仲間作りと言う方が正しいかも。
ただ、先に起業したからそう思ってるだけかもしれませんが・・・