期末試験中に行われた講演会の感想を忘れないうちに。
Sloanでは、Dean's Innovative Leader Series という、有名企業のCEOやCFOなどを呼んで行われる講演会がたまにある。
今回は、Terri Kelly という、ゴルテックスで有名なW.L.Gore & Associates の女性社長だった。
創業当時から続く、イノベーションを生むような企業文化をどうやって維持していくか、というテーマだった。
一般に、組織が大きくなると、イノベーティブな文化を保持するのは難しくなる。
効率性のため、組織を切り分けて部署をつくるようになると、コミュニケーションが薄れ、「隣は何をする人ぞ」となる。
部署間のやり取りは官僚的になり、時には権限と仕事をめぐっての「縄張り争い」が生じる。
人の評価を平等にすることを目指すと、ポジティブよりネガティブをとるようになる。失敗を嫌い、保守的な文化になる。
イノベーションが生まれやすい文化とは真逆である。
とはいえ、企業が成長して組織が大きくなるのは免れないことだ。
じゃあ、どうやって成長する組織で、イノベーティブな企業文化を維持するか。
彼女の話を要約すると、ひとつは文化を守るために、マネジメントレベルが圧倒的な人と時間の投資をすること。
もうひとつは、成長(Growth) より企業文化の維持を優先する、ということだ。
もちろん文化を守るためにこの企業がやっている施策は、細かく書けばいくつもある。
しかし、それらの施策を可能とする方針は何か、と考えると、本質的には上の二つが鍵なのだと思う。
- 意思決定をする際の官僚的な仕組みは出来る限り排除する-官僚的な仕組みを入れたほうが楽だから、常に誘惑があるが、その誘惑を排除する
- フラットな組織を維持するため、役職は出来る限り設けない。実際この組織には、マネジメント以外は、役職というものが無く、「アソシエート」しかないのに驚く。役職がないと、従業員は不安(Insecure)になりがちだが、その不安が、イノベーションを生むのに大切であるという
- 役職が無いので、権限は役職や部署には付随しない。権限は「新しいことを始めた人」が勝ち取る仕組みとなっている。だから新しいプロジェクトを始めることが、自然と奨励される
- アソシエートの人事評価はFollower(この人をリーダーにしたい、とついてくる人)の数で決める。アソシエートは、他の人の研究がはかどりやすいようにサポートをしたり、リーダーシップをとってくれる他のアソシエートを指名するから、自然とリーダーシップや協業体制が生まれやすい仕組み
- もうひとつの評価は、そのアソシエートが会社のミッションやビジョンに沿った行動をしているかという360度評価
しかし、これらの仕組みや決まりを導入しても、文化として定着させるためには、マネジメントがアソシエートたちに莫大な時間を使って、その仕組みの根本にある思想を説明し、理解して行動してもらう必要があるのだ。
そして、「成長と企業文化の維持のどちらを優先するのか」という私の問いに対し、企業文化の維持が難しくなるくらいなら、成長のスピードを遅くしてでも、文化を維持することに投資するし、時間を使う、と彼女が答えていたのが印象的だった。
企業文化というものは、一度なくなってしまったら作り直すのがそれだけ困難なものだ、という。
いろいろと考えさせられるところのある講演会だった。
特に「成長より企業文化の維持」というところ。コンサルタントとして直面することが多いジレンマだからね。