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太田裕美について少し真面目に語ってみようか

35年の時が過ぎ、太田裕美についてあらためてもう一度考えてみようと思っています。

2009年10月07日 | アルバム「短編集」
この古めかしい楽器はなんだろうか? 「妹」は大正琴のような音色で始まる。その音色の古めかしさに似て、姉が妹を思う気持ちも古風ないろどりだ。

恋人ができ、まぶしく輝いている妹に対して、姉は恋に破れ、失意にくれている。姉は自分が持っている水色のブローチを妹にあげようと思っている。いまの自分にはブローチの水色も涙色にしか見えないが、妹のあなたには明るい色に輝くだろう、と。

「まごころ」「短編集」の中で、明瞭に失恋をうたった曲は少ない。そのほとんどが、恋に落ちた喜びや恋の芽ばえとその不安をうたっている。「まごころ」に収録された「白い季節」が唯一「いま胸の中で切れたのです 愛の糸が」と別離をうたってはいるが、明るい曲調もあって、むしろ再生の歌になっている。そういう意味で、愛に破れ失意に泣く女性の感情をうたった最初の曲が、この「妹」になるだろう。相手の男性を登場させることなく、男性とのやりとりを描写することもなく、ただ輝いている妹と自分を対比させて、姉の喪失感を描くあたりは、やはり松本隆は単純ではない。

太田裕美には、実際に1つ違いの妹さんがいるらしい。そのことがこの歌詞にどれくらい影響を与えているのかはわからない。「妹よ ひとつ違いのあなたは 妹よ いちねん前の私ね」とうらやむような、妹の幸福を祈るような、微妙な表現はあいまいなまま受けとめたい。1年の違いでそれほど成熟の度合いが違うものだろうかという素朴な疑問もなくはないが、思春期とか青春とかいう時代は、人は変わるときには大きく変わることがあるということを思い出す。

妹に向かって「早く かけてゆきなさい」と呼びかけているが、気持ちの中では、幸福に向かってかけてゆくことができなかった恋に落ちたばかりの自分に向かって語りかけているのかもしれない。あのとき、もっと早くかけてゆければ、愛を失うことはなかったのではないか、と。

作詞:松本隆 作曲:筒美京平

恋人が出来たお祝いに
この水色のブローチをあなたにあげる
その清々しさ きらめきが
愛を失くした私には似合わないから

私がつければ涙色のブローチも
あなたの胸なら明るい色

妹よ ひとつ違いのあなたは
妹よ いちねん前の私ね
早く早く かけてゆきなさい 幸福に向って


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