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太田裕美について少し真面目に語ってみようか

35年の時が過ぎ、太田裕美についてあらためてもう一度考えてみようと思っています。

銀のオルゴール

2009年10月02日 | シングル盤のみ
「銀のオルゴール」は、1976年9月1日に発売された5枚目のシングル「最後の一葉」のB面の曲である。大学に入学し下宿生活をしていたビンボー学生にとってシングルレコードというのは、値段は安いが、効率が悪く、買う余裕はなかった。そのためこの曲を実際に聴いたのは、ずっとあとのことだった。現在聴こうとすると「Singles 1974~1978」というシングル発売された曲を集めたCDになるのではないだろうか。

オルゴールのメロディで始まるこの曲は、初期の太田裕美の、内気で、控えめで、引っ込み思案気味な女性(というより少女と呼んだほうがふさわしい)の世界を描いている。

結婚披露宴直後に新婚旅行に出発する新郎と新婦を友人たちが見送る風景が背景だ。いまではあまり見なくなったが、新幹線のホームなどで当時は見ることができた。

主人公の女性は、その新郎とどんな関係だったのかはわからない。ただ「一度でもキスしていたら 運命が変ったかしら」とだけ後悔に似た気持ちを持っていることだけがわかる。どうも一方的な片思いというわけではなく、なにかあったようななかったようないきさつのようなのだ。まあ、70年代なかばというのは、そうそう肉体関係に発展するわけでなく、「つきあう」といったって、キスひとつしないで別れてしまうようなことも多かったわけですね、はい。

彼女は、結婚してしまった彼氏にお祝いの言葉を言うこともできず、ただその場にいることくらいしかできず、出発間際にウェディングマーチが鳴る銀色のオルゴールを汽車の入り口でその彼氏に渡すのがせいいっぱいだったようだ。

「花嫁を夢に見ていた 少女などもういないのよ」ということから、彼女自身は彼氏と結ばれることを夢見ていたようで、彼氏が心変わりして捨てられてしまったということなのかもしれない。「取り残された自分」という言葉から、彼氏の心変わりに気づかなかったり、気づいてもどうしていいかわからず、結局、まわりの変化に対応できなかった彼女のとまどいと自分に対するうらみのような感情も感じられる。

この曲でのオルゴールは、彼女の未練のような思いの象徴であるのだろうが、本人はホームに取り残され、オルゴールが列車の窓際でウエディングマーチを奏でていても、いつかはゼンマイが切れて、鳴り止んでしまう。

いずれにしろ歌詞からは、二人の関係はよくわからない。たぶん松本隆は、列車の出発間際に銀のオルゴールを新郎に渡す女性の姿、列車の窓際に置かれてオルゴールが鳴っている風景、そんなものが描きたかったのではないかと思う。

曲の最後が「窓ガラス一枚へだて 幸せと不幸せです」とあまりに工夫がない歌詞で終わっているが、全体的には不用意にさわると壊れそうな女性のナイーブな気持ちがうまく表現されている。

なにも言わずにじっとたたずんでいたかと思うと、新郎にいきなりオルゴールを差し出す女性、それも二人の関係をよく知っている友人にしたら「オイ、オイ」というところだろうが、テレビドラマや映画、小説が現実そのものでないように、ポップスの歌詞もけっして現実そのものである必要はない。現実にはありえないような情景でもリアリティが感じられればいいのだろうと思う。

銀のオルゴール
作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄

結婚を祝う言葉を
あれこれと考えたのよ
それなのにあなたと会って
目を見たらなにも言えない

ホームには仲間があふれ
にこやかに握手してたわ
ごめんなさい指がふれたら
泣きそうで近よれないの

動き出す汽車のデッキに
小走りに渡すオルゴール
悲しみのウェディングマーチ
あなたへの贈り物です

「けっ・こんを・い・わ・う・こ・と・ば・を」とこまぎれに歌いだしながら、「なにもいえない~」というフレーズで、少し低めに歌うところがゾクッとくる萌えポイントである。

太田裕美の歌い方というと、「ファルセットが」となりがちだが、高い声から急に低い声になって女性の情感を歌う、そんなところもいいなと私は思っている。