〈第三項〉論で読む近代小説  ◆田中実の文学講座◆

近代小説の読みに革命を起こす〈第三項〉論とは?
あなたの世界像が壊れます!

『金閣寺』について

2023-11-23 12:43:04 | 日記
これまでの文学講座では、近代小説の神髄につてい考えてきました。
明後日の講座ではこれを『金閣寺』で考えましょう。

小林秀雄は『金閣寺』をあれは小説ではない、
「抒情詩」だとその魔的な魅力を極めて鋭く指摘しています。
まず、これを理解するのが大変です。
ところが、三島はこれを肯いながら、実は、これがいかに「抒情詩」ではなく小説なのかを
そっと漏らしています。
批評家の王座にいる小林にも、『金閣寺』が近代小説の《神髄》であることは通じていなかった、
ここが問題の発端です。

以前から問題にしている、「蝶番」の位置の問題です。
以前あまんきみこの『白いぼうし』論で、これについては詳しく説明しましたが、
この問題は文学研究者や国語教育の専門家にも容易には通じにくい、
我々の文化の通念、世界観の常識を超えています。
三島の小説論はリアリズムの文学の世界観を超える、
近代小説の神髄に関わる難問(アポリア)です。
 
『金閣寺』は末尾、主人公溝口が放火犯と化して「生きよう」とする物語ですが、
冒頭、その放火犯が生身の〈語り手〉に変貌しているという仕掛けが施されていました。
それは誰にでもわかるのですが、
実は、そこにはもう一つ、隠されていたことがあります。
それは、その生身の〈語り手〉のメタレベルに立つ〈機能としての語り手〉が全体を構成し語っていたことです。

こうしたことは近代小説の根幹に関わり、
小林秀雄に限らず、今日の文学研究の学問界でも批評の世界でも、
管見の限りは理解されていません。
詳しくは当日お話しします。
またブログでも今後、併せて書き進めていきましょう。

11月の講座のお知らせ

2023-11-18 20:27:04 | 日記
11月25日(土)に、田中実文学講座を開きます。
今回のテーマは「『金閣寺』再論」としましたが、
突然、私が親しくさせて頂いた鷗外研究の先輩小泉浩一郎さんの訃報をお聞きし、
少しうろたえています。
思いもしなかったのです。

そこで、今回は、三島由紀夫の『金閣寺』の代表作を改めて読み返しながらですが、
小泉さんと論争になった、また、三島が絶対的に尊敬する鷗外の小説『雁』論を
併せて対照していきながら、今月、来月と「近代小説の《神髄》」とは何か、
皆さんと考えましょう。

近代文学の研究の学問界が近代小説をどう読んできたか、
そもそも、近代小説をどう読めば近代小説として読めるのか、
そんなことを考えていきましょう。
冒頭に小林秀雄と三島由紀夫の『金閣寺』の関する対談を紹介します。


11月の講座の申し込みは以下の通り、
朴木の会からのお知らせです。

※下記時間は日本時間です。
作品 特になし
講師 田中実先生(都留文科大学名誉教授)
日時 2023年11月25日(土)13:30~15:30
参加方法 zoomによるリモート
申込締切 2023年11月24日(金)19:00 まで
参加をご希望の方は、下記申込フォームから申し込んでください。
申し込まれた方には、締め切り時間後に折り返しメールでご案内します。
https://forms.office.com/r/q1G0x1BGG1
問い合わせ:dai3kou.bungaku.kyouiku@gmail.com
主催 朴木(ほおのき)の会

今週末の講座のこと、

2023-10-25 10:12:32 | 日記
今週末の講座は近代小説の神髄に向けて、これが如何に近代の本流である
リアリズムの枠組を超えて、原理的に《神髄》に向かっているかを
体験的に感じ取っていただけるような時間にしたいと願っています。

これまで魯迅の『藤野先生』と『故郷』、そこから導き出された近代小説の行方のお話を
してきましたが、それをまとめた拙論が都留文科大学のりポリトジに公開されています。
『都留文科大学研究紀要』第98集に掲載されていますので、
お時間がおありの時、ちらっとでもご覧いただけるとありがたいです。

鷗外の『舞姫』から村上春樹の『街とその不確かな壁』まで、
その大筋はどこにあるのか、私見を申し上げ、お聴きの方々との対話を願っています。

以下は、朴木の会からのお知らせです。

10月28日(土)に、田中実文学講座を開きます。
今回のテーマは「近代小説の本流ならぬ《神髄》を求めて」です。
はじめて方も歓迎します。大勢の皆さんのご参加をお待ちしています。

※下記時間は日本時間です。
作品 特になし
講師 田中実先生(都留文科大学名誉教授)
日時 2023年10月28日(土)13:30~15:30
参加方法 zoomによるリモート
申込締切 2023年10月27日(金)19:00 まで
参加をご希望の方は、下記申込フォームから申し込んでください。申し込まれた方には、
締め切り時間後に折り返しメールでご案内します。
https://forms.office.com/r/BLXrPkihNq
問い合わせ:dai3kou.bungaku.kyouiku@gmail.com
主催 朴木(ほおのき)の会


拙稿「心の架け橋と『藤野先生』論とその行方―「ああ、施す手なし」―」が終わって

2023-10-07 12:29:45 | 日記
拙稿を書き終わって、やっと、ブログに向かいます。
石川さんのコメント、とてもうれしかったですよ。
拙稿が掲載される都留文科大学の紀要は今月13日に納品ですから、
しばらくしたら、大学のリポジトリにアップされ、どなたでも読めるようになるはずです。
ミスがありました。
2頁目の下段、「二十八年間」は「十八年間」です。
訂正してお詫びします。

『藤野先生』の筋は平易に見えて、決してそうではありません。
現在、高等学校国語教科書指導書では〈語り手〉の「私の考え」が「変わった」のは、
こぞって医学から文学に転換した仙台でのことと捉えられています。
これを日本の仙台と捉えるのでなく、「私」が語っている通り、
「のちに中国」でのことと捉えることで、魯迅研究に革命的転換をもたらすことになると、
拙稿では説いています。

その急所は「ああ、施す手なし」にあり、これが
「だがこの時この場所で私の考えは変わった」のです。ここには決定的な世界観の転換、
背離・パラドックスで語られていたのであり、
それは医学から文学への専門分野の転向の問題の類ではなく、
未曽有の思考それ自体の根底の転換です。

『藤野先生』なる文学作品はそのストーリーの根底で、
〈近代小説〉の本流であるリアリズムの枠組みを超え、その《神髄》に達しています。
何故なら、医学から文学への転向ではその志はいささかも変わっていませんが、
文学活動を必死で展開していた「私」がもはや「ああ、施す手なし」と
その精神の根底を斥けられたら、「私」はもはや生きるに値する場を喪失してしまいます。
ちょうど『吶喊』の序文に書かれていること、限界状況での逆説が起こっているのです。
それは拙稿をご覧ください。

拙稿の根幹をここで簡単に言っておくと、
一人称の語り手の「私」の意識の内奥の根源で、「私」ならざる「私」、
すなわち、反「私」がそれまでの「私」と同時存在する《私》に転じていたのです。
すなわち、難解で有名な西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」として《私》が機能している、
そうしたことを拙稿では論じました。

9月の講座のご案内

2023-09-21 12:17:15 | 日記
明後日土曜日、お彼岸の秋分の日、猛暑もこれで終わることを期待しています。

日本の近代小説の基底はリアリズムを本流にしています。
そこでの「深層」が研究対象として読み込まれてきました。
しかし、これは村上春樹の用語でいえば、「地下一階」までの領域、
「深層」ならぬ「表層」です。
この逆転はいまだ十分近代文学研究に浸透していません。
「地下一階」のさらに下層、「地下二階」はリアリズムではもう捉えられません。

かつて、蓮實重彦の高名な『小説から遠く離れて』、『表層批評宣言』が出版されましたが、
これは今も受け止められず、相変わらず、「表層」を「深層」と信じ込んで、
研究がなされています。

村上は通常の小説概念とは異なるところから、創作を始めました。
村上春樹の言い方をすると、けんかをせず、最初から目覚まし時計の分解をして、
作り直して近代小説を見せているのです。
わたくしはこれは鷗外・漱石に通底していると考えていますが、
大変理解しにくいものです。
何しろ鷗外の『舞姫』の半年後の『うたかたの記』を
「パラレル・ワールド」の小説と読んでいますから。

その前に、一人称小説『舞姫』の主人公太田豊太郎の手記それ自体を対象化して読むためには、
「余」を「余」を相対化して語る〈語り手〉、
すなわち、手記の背後に隠れている〈機能としての語り手〉を読むことが必須です。
これができないと近代小説の〈神髄〉を読むことは基本的に不可能、
リアリズムを極め、それを超えていくところ、村上春樹の文学、
「地下二階」を内包させた文学作品はそこから始まります。


今回はこれを魯迅文学『藤野先生』の問題で顕わにして、
村上春樹が魯迅文学に通底している、「地下二階」につながっていることを
世界の人々にお話ししたいと思っています。

ぜひ、土曜日お彼岸の日、ご一緒してください。
以下、朴の木の会からのご案内です。


9月23日(土)に、田中実文学講座を開きます。
今回のテーマは「魯迅の小説『藤野先生』と『故郷』について―今度の拙稿を書き終えて―」です。
はじめて方も歓迎します。大勢の皆さんのご参加をお待ちしています。

※下記時間は日本時間です。

作品 魯迅『藤野先生』
講師 田中実先生(都留文科大学名誉教授)
日時 2023年9月23日(土)13:30~15:30
参加方法 zoomによるリモート
申込締切 2023年9月22日(金)19:00 まで
参加をご希望の方は、下記申込フォームから申し込んでください。申し込まれた方には、締め切り時間後に折り返しメールでご案内します。
https://forms.office.com/r/RpPpvWXSMj
問い合わせ:dai3kou.bungaku.kyouiku@gmail.com
主催 朴木(ほおのき)の会