瀧澤美奈子の言の葉・パレット

政を為すに徳を以てす。たとえば北辰の其所に居りて、衆星の之に共(むか)うがごときなり。

3つの鏡

2020年10月03日 | ひとりごと
 2020年10月1日、菅義偉首相が、日本学術会議が推薦した同会議の会員候補者105名のうち6名の任命を拒否したことで波紋が広がっています。会員候補者を政府が拒否した事例は今回が初めてです。

 「とにかく驚いた」「学問の自由を保障する憲法23条に反する」「制度の解釈が発足時と矛盾しており違法である」「コミュニケーション不足」「赤狩りが始まった」「為政者としてみっともない」「科学者が国会や政府から独立性を維持するための制度が必要」など、左右の政治的ポジションを超えて、さまざまな批判の声が上がっています。

 古今東西、社会や国家から野蛮、不寛容、恣意、不条理をなくすために、多くの工夫が重ねられてきました。それを制度の構築によって克服するのか、人間(とくにリーダー層)の徳性教育で克服するのかといえば、そのどちらかで良かったことは一度もありません。

 今回の件は、日本学術会議自体のもつ課題や、政府との位置づけについて議論を喚起する機会になると予想され、そのことは歓迎すべきことといえます。

 しかし、そのことを議論の主軸にするのは、今回起きたことの主要論点のすり替えであり、まず先に解決すべきなのは、今回の政府の態度そのものです。
 為政者としてこれは良い意思決定につながる決定かどうか、そもそも為政者にふさわしい態度かどうかということです。

 為政者が良い意思決定をする上で必要な心構えについては、すでに先人が答えを出しています。7世紀の中国、唐の時代に生まれた『貞観政要』では優れたリーダーの要諦として「『銅の鏡』『歴史の鏡』『人の鏡』の3つの鏡を持て」と述べています。
 一番目の「銅の鏡」は自分が部下からどのように見えているかを常にチェックすべきということ。二番目の「歴史の鏡」は過去に学ぶということです。そして三番目の「人の鏡」とは、裸の王様にならないように、自分を客観的に見てくれる他人の意見が重要だということです。
 たとえ自分と異なる意見であっても、その言論を封じることは厳に慎まなくてはなりません。自由にものを言えない空気を生み出すことになり、回り回って、為政者自身が良い意思決定をすることを妨げてしまうからです。

 自由で闊達な議論ができる環境を一日も早く作るために、いま政権が為すべきことはあまりにも明らかではないでしょうか。



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