瀧澤美奈子の言の葉・パレット

政を為すに徳を以てす。たとえば北辰の其所に居りて、衆星の之に共(むか)うがごときなり。

渥美半島沖で始まったメタンハイドレート掘削。地震を誘発する恐れはあるの?

2012年02月16日 | 科学ニュース
ここ連日、JOGMEC地球深部探査船「ちきゅう」を使って、渥美半島沖の海底下約270メートルでメタンハイドレートの採掘試験を開始することが報じられています。

 私のところにも何件か「地震を誘発する恐れがあるのでは?」という問い合わせが来ました。調べたところ、結論を先にいうと「誘発の恐れはない」と言っていいと思います。
 ついでなので、ブログにもアップしておきます。

 今回の試掘に関することは、経済産業省の第20回メタンハイドレート開発実施検討会に資料が公開されています。昨年8月に開催された検討会の資料です。

 この「資料7」の3ページ目に、「海洋産出試験が地震に与える影響」について述べられています。
1.メタンハイドレートの地層はプレートに比べて柔らかく、歪みを蓄積しないため、地震発生原因にならない。
2.掘削地点の地下に想定されている地震発生域(プレート境界)の深さは海底下10キロメートル(1万メートル)以上であるのに対し、今回掘削のターゲットとなっているメタンハイドレート層はごく浅く、海底下300メートル程度でしかない。
3.世界各地で海底下資源掘削が行われてきたが、大地震を誘発した例はない。

 という3点があげられています。
 とくに、同ページに掲載されている、この地点の海底下の地層断面図を見ると一目瞭然で、掘削と言っても「表面をひっかく程度」であることが分かります(左上の赤い小さな矢印の先)。

 昨年の3月11日東北沖地震では、プレート境界の海底下24キロメートルの地点で最初の断層のずれが発生し、それがプレート表層まで波及して、大きくずれたことが大きな津波の発生につながりました。
 対して、今回の掘削地点は、地下のプレート境界からも、表層のプレート境界からも、かなり離れていることを理解していただけると思います。
 
 今回の掘削地点は渥美半島沖で、東南海地震の想定震源域として地図で囲まれている図をしばしばニュースで見かけます。しかも、地震発生の時期が切迫しているかもしれない(いつ発生するかは誰にも分からないことですが)ということで、メタンハイドレートの試掘が地震発生に影響を与えるのではないかという心配は、ごくごく自然な発想だと思います。
 資源エネルギー庁の方もマスコミの方もこれくらいの基本的な図はセットにして、情報提供をしていただければ良かったなあと思います。
 

 

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2 コメント

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どこまでもどこまでも・・・。 (はる)
2012-02-19 16:03:39
メタンハイドレード開発については地震誘発も確かに心配にはなりますが、それと同時に「人間は一体どこまで自然から搾取すれば気が済むんだろう?」と考えてしまいます。石油や石炭を採り尽くしそうになり再生可能エネルギーとか循環型社会とか言われてきたところでそれでもまだ天然資源を利用しようと思うなんてびっくりです!!
確かに現実にはこれだけ人類が増えて文明も発達した社会を支えるために莫大なエネルギーが必要なのだろうとは思います。でもこれでは全く同じことの繰り返しではないでしょうか?
また、メタンは燃料化した場合のCO2排出量は石油より少ないのですが、メタン自体の温暖化効率はCO2より高いと聞きました。採掘時などに大気中に漏れ出たら大変なことになりますよね。その辺のデメリットの情報はあまり報道されていないように思っているのは気のせいでしょうか?
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コメントありがとうございます (瀧澤)
2012-02-20 10:35:42
はる様

 コメントをありがとうございます。おっしゃるとおり心情的には私も同感です。メタンハイドレートに日本のエネルギーの多くの割合を依存するかどうかは慎重に検討するべきだと思います。一方で、世界中どこの国であっても、エネルギーの基本原則は多種多様なエネルギー源のベストミックスです。リスク分散のためです。もちろん、温暖化に対するプライオリティも重要です。

 今回の採掘は、採掘時の大気中への漏れ出しがないよう、安全な技術を得る技術を確立するための採掘試験です。
 その辺の情報は確かに少ないかもしれませんね。エネルギー関係の情報は安全保障に直結するので、出しにくいところもあるでしょうけれども、この技術の進展状況などは懸念されている方も多いと思いますので、なるべく出していってもいいのではないかと思います。
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