ひとり井戸端会議

主に政治・社会・法に関する話題を自分の視点から考察していきます。

条約のイロハも知らぬ「知識人」

2010年05月11日 | 外交事情考察
韓国併合条約「当初から無効」 日韓知識人が共同声明(朝日新聞) - goo ニュース

 今年、韓国併合100年になるのを機に日本や韓国、在日コリアンの歴史学者、ジャーナリスト、小説家ら200人余りが署名した日韓知識人共同声明が10日、東京とソウルで発表された。
 「両国政府と国民が共同の歴史認識を確認することが重要」として和田春樹・東大名誉教授や荒井信一・茨城大名誉教授らが発起人となり、作家の大江健三郎氏らが署名した。韓国併合(1910年)について声明は「日本が韓国皇帝から民衆までの激しい抗議を軍隊の力で押しつぶして、実現した」とする。日本政府は65年の日韓国交正常化に際して「併合条約は対等の立場で、自由意思で結ばれた」という解釈をとったが、声明は「併合に至る過程が不義不当であり、同様に併合条約も不義不当であり、当初から無効だった」としている。




 笑止千万な宣言である。韓国は未だに日本への反発をバネにしなければ自身のアイデンティティを確立できないルサンチマンになり下がってしまったのだろうか。


 まず、条約の効力についてであるが、これについては条約法条約が規定する。条約法条約による条約の無効原因は以下のとおり。


条約の締結権能に関する国内法の規定違反
国の同意を表明する権限に付された制限違反
錯誤
詐欺
代表者の買収
代表者に対する強制
武力による威嚇または武力の行使による国に対する強制
一般国際法の強行規範違反


 本件で問題となるのはおそらく、(1)代表者に対する強制、(2)武力による威嚇または武力の行使による国に対する強制、の2つのであろう。


(1)代表者に対する強制

 これは、国家を代表して条約の締結に当たる者に脅迫等の強制を加えて締結した条約は無効になる、というものである。代表者の身体・名誉や財産への脅迫の他、代表者の家族に加えられる脅迫もこれに該当する。


(2)武力による威嚇または武力の行使による国に対する強制

 これは、読んで字のごとく、武力の強制により締結された条約は無効ということである。ただし、条約法条約は、国連憲章に違反する武力による威嚇または武力の行使による強制に限定して、条約の無効を認めている(条約法条約52条)。


 が、お分かりのように、これはあくまでも「戦後」打ち立てられた国際法であって、日本が韓国を併合した戦前に存在したものではない。条約法条約には遡及効(過去にさかのぼって生じる効力)はない(条約法条約4条)。したがって、日韓併合時に遡り、これら規定の効果を及ぼすことはできない。


 また、伝統的に国際法上、国の代表者に対する武力による強制は条約を無効にするが、国家に対する強制は条約の無効原因にはならないと解されてきた。条約というものが、現在においてもなお、一定の軍事力を背景に結ばれることを考えると、当然の法理である。ナポレオンが、「外交とは華麗な衣装をまとった軍事である」と言ったのは周知のことだろう。



 ところで、2001年11月16日から17日にかけて、アメリカのケンブリッジで開催された国際会議において、日韓併合の法的効力について議論がされたことがあった。

 ここで韓国は、日韓併合が法的に無効であることを韓国政府を挙げて主張したのだが、イギリスの国際法学者等から合法論が強く主張され、国際舞台で無効論を広めようとした韓国の目論見は失敗に終わったことをご存知だろうか。

 しかも、こうした韓国の主張は、欧米の学者、とりわけ国際法を専門とする学者からは、全く受け入れられなかったのであった。


 当会議において合法論を強く主張していたケンブリッジ大学のJ・クロフォード教授は、自分で生きていけない国について周辺の国が国際秩序の観点から、その国を取り込むというのは当時はよくあったことで、日韓併合は国際上は不法なものではなかったと述べているのである。


 さらに、国際法学者である坂元茂樹関西大教授によれば、「第二次日韓協約が締結された1905年に、慣習国際法上、条約の無効原因として承認されていたのは国の代表者に対する強制のみ」であって、「強国が弱国に対して行う武力による威嚇又は武力の行使による条約の強制は必ずしも条約の無効原因とはみなされていなかった。」と、あの雑誌「世界」(1998年9月号)において述べているのである。


 そもそも、道義的に問題があるからといって、それによりただちに法的な効力まで否定するというのは論理の飛躍であるし、それを言い出せば条約などほとんど結べなくなるだろう。



 さて、ここまで述べれば、彼ら「知識人」の主張がいかに特定のイデオロギーに満ちた恣意的な解釈に基づき、しかも相当無理のある解釈により導きだされた結論であるか、お分かりいただけたかと思う。



 余談だが、外国人参政権の議論において、在日韓国・朝鮮人らは、1952年の民事局長通達により日本国籍を一方的に剥奪されたと主張するが、日韓併合が当初から法的に無効ならば、彼らは(実際上の)日本統治下においても李氏朝鮮籍(?)を有したいたわけであり、日本国籍など最初から保持していなかったということになるが、この主張との整合性はどう取るのか、気になるところである(笑)。