文春文庫
1994年3月 第1刷
2012年12月 第28刷
解説・中野孝次
221頁
「玄鳥(げんちょう)」
不幸な結婚をした女性の粗忽者だけれど夫よりはるかに人間らしい昔の父の弟子に寄せる思い
もどかしさはありますが、この時代これより他の道は無かったのでしょう
「三月の鮠」
藩主の前で行われた紅白試合に負けて以来、引き籠りのようになっていた若者が釣りに出かけた先で出会った女性
彼女の存在が若者を再生に導くのですが、その女性の身分がトラブルの元なのです
最後の最後までハラハラ・ドキドキが続きます
携帯もメールも無い時代、全ての問題が解決し二人が再会するまでの時間の長いことといったらありません
再会のシーンは映像で観たらどんなにか素敵かと思いました
「闇討ち」
若い頃から付き合いがあり、今は隠居身分の3人の武士
そのうちの1人、勤めをしくじって家禄を減らされた男がある筋から闇討ちを持ちかけられる
罠だと説得する残り2人だが耳を貸さない男
哀しい話ですが人の温かみが伝わってくるラストでした
「鷦鷯(みそさざい)」
娘と二人暮らしの貧しい武士
内職をしながらなんとか生計を立てているが、借金を返すのもままならない
見目も躾もよくできた娘を、自分の息子の嫁に是非、と金貸しから言われるも断る武士
さて、その件の息子、いかなる人物なのか?
父親が娘の婿となるであろう男性を認めるという話は何篇かありますが、どれも微笑ましくて良いです
「浦島」
酒の上の失敗から配置換えの憂き目にあった男性
体力的にはキツイもののノンビリした環境に慣れてきた頃、事の真実が発覚し晴れて元の仕事に戻されることとなる
ところが、久しぶりの職場の雰囲気は彼を受容れるものではなかった
現代に通ずる話です
それにしても、お酒の飲み過ぎはイケマセン
中野さんが解説で藤沢作品の好ましいところを書いておられます
○文章のよろしさ-端正でいてメリハリがきいている
○登場人物の人間性-ふつうの人間ばかりだが、我々と同じ等身大の人物で弱点をもっている
○剣の立合いの描写のみごとさ-具体的で精妙かつ端正で、大人の読むに耐える叙述をなされている
○友情-時代小説、すなわち昔の話という特権を利用して人物たちあいだの友情のあつさを描いている
○自然描写のよさ-四季折々の山や川、町、野の美しさは郷愁のようにわれわれに訴えかけてくる
○食いものの描写の良さ-こちらの想像をそそるのみか、郷里の食いものへの憧れを通じてこちらに語りかけてくるものがある
○人間のよろしさ-主人公たちの人物が魅力的である
○女の姿と心のよさ-控え目で自制心に富み、欲望や感情をむげに出すのをはしたないこととし、献身的で躾というもののあった時代の日本の女はかくあったかと、われわれの心をゆさぶる
その通り!
この作品を、映画化する監督はいないのかと期待しているのですが。
昔の日本人ってホント大人でしたねぇ。
堪え性があります。
矜持というものがあります。
是非とも映画にして欲しいです!
用心棒シリーズなどが大好きで文庫本を買った.りNHKでやってたのをビデオに撮ったりしてたのしんでいました。
ほのぼのとした感じと下から目線のところがいいですね
そうそう、偉そうでないしね。