文春文庫
1992年9月 第1刷
2013年1月 第43刷
解説・丸元淑生
437頁
短篇集です
用人という重職を退き息子に家督を譲って、離れに起臥する隠居の身となった三屋清左衛門
想像していた以上の世間から隔てられた寂寥感、老いた身を襲う悔恨に悶々とする日々に戸惑う清左衛門は日録を残すことを自らに課す
暫く後、嫁や友人のアドバイスもあり隠居生活にも慣れて元気に暮らす毎日だったが、紛糾の渦中にある藩の執政府は彼を放っておいてはくれなかった
藩の政争、清左衛門の身の周りの小事件など、切れ味よく小気味よい展開で物語は語られます
町奉行からの依頼でちょっとした事件に首を突っ込むことになった清左衛門
冒頭の2編に
「はて、面妖な」という台詞が出てくるので、シリーズでいくのかと思いましたが、藤沢さんはそんな単純な作品作りをする方ではありませんでした
藩の政争もの以外では
零落した元同輩との再会を描いた話が印象的でした
落伍者と成功者の立場の違いをくっきりと浮かび上がらせたうえ、成功者である清左衛門の成長を描いています
恵まれた隠居老人というと、もう人間としては出来上がったものと思いがちですが清左衛門にはまだ『伸びしろ』があるということでしょうか
友人が中風で倒れるなど、老いの現実も描いています
定年を迎えたばかりの方には清左衛門が隠居した当初の気持ちがよく理解できるのではないでしょうか
定年後の生き方指南に役立つ一冊かもしれません
この本、実に名作・傑作ですね。素晴らしい作品です。亡父が入院中に、退屈しのぎに持参したら、たいへん気に入ってしまって、「お前、もう一冊買え」と言われたというエピソードがあります(^o^)/
清左衛門は現役時代の過ごし方も、隠居生活への切り替えもまぁまぁ上手く出来たほうでしょうか。
柔軟性と人間関係は大切なのだと思いました。
主人がご隠居暮らしを始めることになったら本書を強制的に読ませようと思っています(笑)
narkeipさんのお父様も今頃は天国で本書を思い出しながらnarkeipさんの暮らしぶりをみてらっしゃるかも?
平松某の使い方が都合良すぎるのではないかと感じられたのが唯一不満でした。