4/8 投稿
僕の恋人は６０歳 １１話
僕は成田に着くとそのまま会社に行った。
その日は会社を遅く出た。
帰宅したのは１１時近かった。
翌日金曜は代休を取った。
昼近くになって僕は福子さんに渡すものを持って
福子さんの家に行った。
福子さんは昼近くの僕の訪問を驚いたけど
ものすごく嬉しそうだった。
僕は自分の家にでも入るように福子さんの家に入った。
それから福子さんのスマホを借りてダニエルの写真を転送した。
そして、福子さんにはい、お土産と言いながらスマホを返した。
福子さんは、エ、何？と言ってスマホの開いているページを見た。
福子さんはダニエルの写真を見て、固まっていた。
それから泣きそうな顔をしてどうしてと僕に言った。
僕はニカっと笑って、
僕、ダニエルに会いました と言った。
それから日曜日にシャンティイに行った話をした。
福子さんは椅子に座ってじっと僕の話を聞いていた。
僕はダニエル家のシャトーの庭先でダニエルに会い、
シャトーを案内してもらいとあったことを順に話した。
僕、福子さんの写真をダニエルに渡しましたと言った。
エーエ、どの写真よと福子さんは困った顔をした。
僕は僕のスマホにあった福子さんの数枚の写真を見せた。
彼も泣きそうでした。
福子さんは頭を上げ、彼・・・と言いかけたので
僕がまだ独身でした と文を終わらせた。
僕はダニエルに福子さんの住所も電話番号も伝えたと言った。
ダニエルから預かったシャトーの本も渡した。
福子さん泣き声で、そう、ありがとう とつぶやいた。
僕の気持ちは複雑だった。
恋人になってほしい福子さんのキューピッドをやる自分が惨めだった。
僕は福子さんちに泊まるつもりで来たけど
夕方早々に帰った。
福子さんの心が日本になかったからだ。
福子は台所のテーブルで手紙を書いていた。
でもうまく書けないで、書いては便箋を丸めていた。
８時ごろだった。
電話が鳴った。
福子は寝室に接続していた固定電話に出た。
もしもしと小さい声で電話にでた。
フクコと男の声がした。
ダニエルと福子は言ってベッドに座りこんでしまった。
ダニエル、ダニエル、コマン ヴァ チュ？
福子は泣いていた。
フク、フクとダニエルの声も泣いていた。
２人はフランスと日本間の電話線を通じ抱擁しあった。
別れて４０数年の時が吹っ飛んだ。
会いたい 二人は同時に同じことを言った。
２人は１２時過ぎまで話しあった。
福子は短期間家を留守にすることはできたけど
この家を処分してフランスに行ってしまうことは決心がつかなかった。
ダニエルは兄にビジネスを任せて日本に住むことはできなかった。
僕はもう２週間も福子さんちに行っていない。
電話もしていなかった。
福子さんは別な人になっていて、どう別な人と言えば外国人というのがピッタリだった。
僕の人生でフランス人と接触したのはフランスに出張したときだけだった。
これがフランス人というイメージもないのだけど
福子さんは日本人ではなかった。
