「愛情をこめて育ててきたのに、廃業しなければならないのはくやしい」
船場吉兆ではない。各地の畜産農家からわき起こる嘆きだ。トウモロコシなど輸入飼料の高騰で、牛や豚、鶏を飼っていくのは限界に近いという。たとえば、豚1頭の出荷価格は4万~5万円だが、エサ代はこの1年で1万円弱余計にかかるようになり、利益はほとんど出ない。
漁業関係者からは「漁に出ても燃料代が高すぎて赤字になる」との声が聞こえる。沿岸漁業だけではない。太平洋に向かう遠洋マグロ船団にも休漁が相次いでいる。国際組織の「責任あるまぐろ漁業推進機構」(東京)は今後、市場に出回るマグロが減ると予測している。
海外でも、ドイツで酪農家が牛乳の出荷をやめたり、フランスで燃料費高騰に怒った漁師がストライキに入った。フランスのマルセイユなど各地の魚市場は休場に追い込まれ、漁師のストはイタリアやポルトガルにも広がる勢いだという。
小麦粉や食用油の値上がりによる食卓への打撃は序の口だったかもしれない。「食料危機」は途上国の話と思っていたが、どうやら違うようだ。石油や穀物に恵まれた米国、ロシア、ブラジルなどはともかく、持たざる国の消費者はなすすべがないのか。
いや、貴重な「資源」の存在を忘れてはいないか。食べ切れず、ゴミとして捨ててきた年間2000万トンの食料である。途上国なら5000万人を飢えから救える量だ。足元を見直しライフスタイルを少し変えてみる。それが大切だと思う。(編集局)
毎日新聞 2008年5月30日 東京朝刊