中学の校長先生から「卒業を祝う会」への案内状をいただいた。4年前にこの欄で、卒業後に不慮の事故で亡くなった少年をしのぶ「記念樹」を紹介した縁だった。
阪神大震災の体験を基にボランティア活動を広め、生徒会長として抜群のリーダーシップを発揮した山田聡君。校庭に植えられた桜の木は大きく育ち、後輩の門出を祝うように毎年、花を咲かせる。
その東京都文京区立第五中学は来年の春に62年の歴史に幕を閉じ、近隣の学校と統合されてこの地を離れる。少子化や公立離れの影響で生徒が激減したためという。学校は、校舎が取り壊されても記念樹は残してほしいと教育委員会に要望している。
「祝う会」では最後の卒業生になる2年生が劇を上演した。元校長で学校演劇の第一人者の小野川洲雄先生が書き下ろした「イマジン(想像してごらん)~たとえば、五中ものがたり」。2年生が3年生を送るためにどんな劇を作ればいいかを考えていく劇中劇だ。生徒たちが学校の歴史を振り返りながら、ここで学び、巣立っていく意味に思いをはせる。彼らが直接は知らない山田君も「我らが誇る先輩」として登場した。
私は舞台を見つめていて、自分の母校ではないのに卒業生の一人になったような感覚にとらわれた。学校とは不思議な場所である。時代が流れ、人が入れ替わっても、卒業生が残したものが受け継がれている。劇はそれを実感させてくれた。
山田君の桜の木は、たとえ校舎がなくなろうとも多くの卒業生が心に刻む「記念樹」として残るに違いない。
毎日新聞 2008年3月22日 0時03分
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