わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

日本語のすすめ=福島良典

2009-02-26 | Weblog




 江戸時代、日本はオランダ語を通して西洋の知見を手にした。医師・杉田玄白(1733~1817年)の著書「蘭学事始」に詳しい。「今時、世間に蘭学といふこと専ら行はれ、志を立つる人は篤く学び、無識(むしき)なる者は漫(みだ)りにこれを誇張す」

 蘭学を英語に置き換えると、今の日本の状況を指しているようだ。英語学習熱が高まり、何かというと、英語の効用を言い立てる人もいる--と。

 医学書を翻訳した先達の苦労を追体験できればと、外国人向けのオランダ語教室に通い始めた。ベルギーの公用語はフランス語、オランダ語、ドイツ語。主催はオランダ語振興団体だ。

 夕刻、文化センターに三々五々、生徒が集まる。ヘジャブ(イスラムのスカーフ)姿の女性も。授業には移民のオランダ語能力を高め、社会に同化させる移民政策の側面もある。

 欧州に暮らして感じるのは、人々の言葉への思い入れの強さだ。自らの言語と文化に誇りを持ち、それを海外に発信する国家戦略が徹底している。

 文化大国を自任するフランスは仏語の普及に努め、文化省予算(05年)は国家予算の約1%に上る。これに対して、日本の文化予算は約0・1%だという(平林博・前駐仏大使「フランスに学ぶ国家ブランド」)。

 日本は自国の言葉と文化を冷遇する一方、英語学習にエネルギーを費やし、外国の流行を追う。外来知識の獲得にきゅうきゅうとする受け身の態度だ。

 蘭学事始から2世紀。外国から学ぶだけでなく、海外への日本語・文化の発信に力を入れる時だ。日本ブランドを世界に広め、知日派を増やそう。きっと、国益につながるはずだ。(ブリュッセル支局)




毎日新聞 2009年2月23日 東京朝刊


コメントを投稿