わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

仕事を選ぶ=磯崎由美

2009-02-23 | Weblog




 急増する失業者を人材難の介護職につなげる行政の動きが活発だ。訓練や当初の生活費を援助し雇用対策と介護職確保を一挙に実現しようという話だが、そううまくいくのだろうか。

 この雇用危機より前に、全国老人保健施設協会が国の制度を活用した人材養成に取り組んでいる。養成校を出ても別業種に就く人が多い。ならば素人でも志ある人を雇い、働きながら資格や技術を習得してもらおうとの試みだ。浪人生やフリーターなど、昨年4月に33人が参加。1年かけて練り上げた教育マニュアルの成果もあり、脱落者は8人どまりという。

 定着した若者たちはどう思っているのか。埼玉県内の施設で働くY君(25)は大学の法学部で商社の内定を得たが、入社前研修で「人に物を売る仕事はどこか合わない」と感じ、祖母を介護した経験からこの道を選んだ。「お年寄りの手のぬくもりや、必要とされる喜びが支え」と話す笑顔がまぶしい。

 でも初任給の手取りは商社の半分。激務で体重は6キロ減った。「正直、5年後が思い描けません。失業者が給与目的だけで来ても、続かないのでは」

 不況になると「仕事を選ぶなんて甘えている」といった声を聞くが、介護現場では志あるY君ですらぎりぎりの暮らしにあえいでいる。「労働者」を「労働力」としか見ず人手不足を補おうとするならば、ワーキングプアをさらに増やし、介護の質向上にも逆行するだろう。

 介護職はキャリアアップや昇給が乏しすぎる。商社並みの待遇が無理だとしても、せめてY君が誇りをもって働き、結婚して子を育てられる職業にすることがマッチングの第一歩だ。(生活報道センター)




毎日新聞 2009年2月11日 東京朝刊


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