チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世の会見に出たことがある。仏教団体の招きで台湾を訪れ、陳水扁総統らと会談するなど一連の活動を終えた後、内外の記者に成果を発表したのだ。
途中でダライ・ラマが机の上のクッキーを食べようとすると、カメラのフラッシュが一斉に光った。ダライ・ラマはクッキーをくわえたまま動かない。しばらくして、「もういいかな?」とでも言うように会場を見渡し、にっこり笑って会見を続けた。
先月、成田空港近くのホテルで行った会見でも、指で角を作るポーズをし、「私は悪魔ですか?」と問いかけた写真が紙面を飾った。
世界にチベット支援の輪が広がるのは、ダライ・ラマの個性も大きいと思う。背負う物の重さや戦う相手の巨大さにもかかわらず、ユーモアを忘れずに語りかける姿に引き込まれた人も多いはずだ。
中国政府はそんなダライ・ラマを「祖国分裂勢力」として激しく非難する。かつて、台湾の李登輝前総統を「独立勢力の黒幕」だとして、罵倒(ばとう)したのと同じだ。
だが、李氏の場合は、中国が非難すればするほど存在感を増した。そして、ミサイル演習で威嚇した96年の総統選では李氏の得票を押し上げ、01年の訪日では日本の世論を李氏に傾かせるなど、中国が望まない結果を生んだ。
国際社会の圧力を受け、中国政府はダライ・ラマ側との対話に乗り出した。実のある話し合いを期待しているが、うまくいかずに中国政府がダライ・ラマを批判するなら、かえってその人気を高めるだけだろう。(論説室)
毎日新聞 2008年5月4日 大阪朝刊
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます