非暴力を掲げたインド独立の父、マハトマ・ガンジー(1869~1948年)でさえ受賞できなかったのに、なぜ、オバマ米大統領なのか--。ノーベル平和賞の選考を巡って議論がかまびすしい。
ガンジーは5度、候補になった。しかし、「民族主義者」のレッテルを張られ、いずれも選から漏れた。48年には推薦締め切りの直前、極右ヒンズー教徒の凶弾に倒れる。
さすがにノーベル賞委員会も後悔の念に駆られたのだろう。死後授賞の可能性を検討した末、賞金の受取人が不明などとして、48年は「受賞者なし」とされた。
だが、その後も59年まで受賞者は欧米人が続く。委員会から「ガンジーをしのんで」の言葉が出たのはチベット仏教のダライ・ラマ14世が受賞した89年になってのことだ。
今年はガンジーの生誕140年。世界各地で追悼行事が続く中、ドイツの万年筆メーカー、モンブランが発売する記念の高級万年筆がインドで反発を呼んでいる。
ペン先にガンジーの姿が彫られた限定品は約220万円。売上金の一部は慈善団体に寄付されるが、「質素な暮らしと国産品を奨励したガンジーへの侮辱だ」として市民団体が販売差し止めを求める訴えを起こしたのだ。
かつて欧米人ばかりが並んだノーベル平和賞受賞者リストと、インドの庶民には高根の花の豪華な記念万年筆。どちらにも世界を高みから見下ろす欧米中心主義を感じる。
だが、対するインドもしたたかだ。ガンジーは外国製品を排して国産品を愛用する運動を進め、インドは今、万年筆から自動車まで自前の企業を抱える。欧米にひざを屈しない反骨精神が、国際競争の激しい現代にも生きている。(ブリュッセル支局)
毎日新聞 2009年10月19日 東京朝刊
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