わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

歴史の始まり=福島良典

2008-12-02 | Weblog

 「今日の米国、ロシア、明日の中国、インドに見合う現代世界には、私たちの国々はあまりに小さくなってしまった」

 中印の隆盛を前にした嘆き節のようだが、「欧州統合の父」と呼ばれるフランスのジャン・モネ(1888~1979年)の半世紀前の言葉だ。欧州連合(EU)の原点・欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)最高機関の初代委員長を務めた。

 欧州統合は非戦の誓いだけでなく、このままでは国際社会で埋没してしまう、との危機感から出発した。遺伝子は「国際競争力の強化」というEU戦略として今に引き継がれている。

 キーワードは世界の多極化への対応だ。EU加盟27カ国の対日輸出は2000~07年平均で1%減なのに対し、対ロシア、ウクライナはともに22%の増加。中国、インドへの輸出もそれぞれ16%、12%伸びている。

 新興国を含む20カ国・地域(G20)金融サミット開催を呼び掛けたのは、75年に第1回先進国首脳会議を主催したフランスだった。主要8カ国(G8)からG20へ。国際社会の主役交代は「多極化した地球の誕生」(ロイター通信)を印象付けた。

 だが、EUの姿勢は「米国一極支配の終焉(しゅうえん)」に留飲を下げる反米ではない。「多極化世界の不安定さ」(ベドリヌ元仏外相)も自覚している。元気なあまり列を乱しそうな国々を取り込む国際ルール作りに力を入れているのも、そのためだ。

 EUと比べ、日本には多極化時代を生きる準備が欠けていないか。地球温暖化対策や世界経済問題で新興国と対話を深め、新世界の青写真を決める話し合いをリードする--。そんな役回りを見てみたい。(ブリュッセル支局)




毎日新聞 2008年11月24日 東京朝刊

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