先日、女優の内山理名さんにインタビューした際、大阪のイメージを尋ねたら「アメちゃんて言うとか……」という答えが返ってきた。
アメ玉を「ちゃん付け」で呼ぶのは大阪ならでは。作家、織田作之助は随筆「大阪論」の中で、イモを「お芋(いも)さん」、油揚げを「お揚げさん」と敬称付きで呼ぶところに、物を重んずる大阪人の観念が現れている、と論じた。
そのアメちゃんにまつわるちょっといい話を聞いた。
年末、大阪・天満でアルバイトしている女子学生が、寒風の中、1人で店のチラシを配っていた。声を張り上げて宣伝するが、通行人の耳に届いているのだろうか。不安と寂しさに襲われた時、通りかかったおじさんが「寒いのに大変やね。これ食べ」とアメちゃんをくれた。
さらにその後、自転車に乗った小学生の女の子が、止めてあった自転車に引っかかって倒れそうになったのを見掛けた。学生は駆け寄って助けてあげた。お礼を言って去った女の子がしばらくして戻って来ると、わざわざ買ってきたのだろうか、アメちゃんの袋を黙って差し出した。1日に2度もアメちゃんをもらった学生は、心がとっても温かくなり、元気付けられたという。
そう言えば、大阪のおばちゃんは必ずバッグにアメを入れてて、見知らぬ人にも「アメちゃんあげよか?」と声を掛ける。学生の体験もそうだが、アメちゃんが人をつなぐコミュニケーションの重要な道具になっているわけだ。
そう考えると、アメを「ちゃん付け」で呼ぶのもうなずける。(社会部)
毎日新聞 2009年2月8日 大阪朝刊
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