1930年代の米南部ルイジアナ州の農村地帯。ヤブに隠れた男たちが乗用車に一斉銃撃を浴びせた。ハチの巣になる車と、車内の若い男女。米ニューシネマの傑作、「俺たちに明日はない」(67年)のラストシーンだ。
主人公の女性ボニーと恋人のクライドは実在のギャング団メンバー。警官殺しや銀行強盗を繰り返して悪名をとどろかせ、34年5月23日に追跡していたテキサス州当局者に殺害された。共に20代だった。
強力なマシンガンで武装したギャング団は当局にも脅威だった。2人の死の翌月、米議会はマシンガンなど火力の大きい銃の所持を規制する初の連邦銃器法を制定した。
それから70年余。米最高裁は自宅での拳銃所有などを禁じたワシントンの銃規制が合憲かを審議している。銃規制を求める市民団体は保守派の多い最高裁が違憲判断を示すのではないかと危惧(きぐ)する。
争点は銃所有が憲法が認めた個人の権利かどうかだ。独立戦争以来、市民が銃で秩序を守ってきたと自負する米国民は多い。だが、最高裁が個人の権利と認めれば、行政は規制に及び腰になるだろう。
全米ライフル協会などの圧力もあり、銃規制の実態はボニーとクライドの時代とあまり変わらない。30人以上が犠牲になった昨年4月のバージニア工科大学銃乱射事件後も規制の声は広がらなかった。
しかし、大型兵器以上に人命を奪う銃の規制強化の動きは世界的にも高まる。3億丁近い銃が出回り、年間3万人が銃関連で死亡する米国の責任は重い。「銃は米国の文化」と規制を拒否する主張は単独行動主義でしかない。(北米総局)
毎日新聞 2008年5月26日 東京朝刊
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