幕末の開設初期から慶応義塾には、寺子屋や私塾にはなかった運動場があり、ブランコが揺れていた。創設者で、早くから身体運動に注目していた福沢諭吉の「まず獣身を成して後に人心を養う」という心身論に基づく。獣と同様に人間の子どもも身体の発育が第一で、学問はその次でいい、が彼の常々主張するところだったという。
詳しく知りたい人は、「運動会と日本近代」(青弓社)で、国際日本文化研究センター教授の白幡洋三郎氏が執筆した第2章「福沢諭吉の運動会」を読んでほしい。
全国学力テストの市町村別データを公表するとか、しないとか、不毛の議論が続く。大阪府では情報公開請求に対し、橋下徹知事が部分開示の判断を下した。データを眺めていて興味を持ったのは学力と生活習慣との関連だ。両者の間には相関関係があることは以前から指摘されている。夜早く寝る子ども、朝食をしっかりとる子どもは成績がいい。あくまでも統計学的傾向だが、大阪府のデータでもほぼ裏付けられていた。
文部科学省は今年初めて、すべての小学5年生と中学2年生を対象にした全国体力テストを実施した。43年ぶりに昨年復活させた全国学力テストの体力版で、生活習慣や食習慣の調査も含まれた結果は年末に公表される。
学力と体力は密接な関係にある。二つのテスト結果を、次代を担う子どもの教育にどう還元するか。21世紀に求められる学力とは、体力とは何か。社会の大変革期を生きた福沢諭吉ならどう答えるだろう。「まず獣身を」は今もって力を失っていないと思う。(運動部)
毎日新聞 2008年10月25日 東京朝刊
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