わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

「かたち」を考える=池田昭

2009-01-30 | Weblog



 何事につけ「伝わるように伝える」難しさを経験したことは誰しもある。

 きょうから阪神大震災15年に向けて被災の教訓を伝える取り組みが始まる。時の移ろいは人々を癒やしもするが、記憶を薄れさせもする。神戸市が小学校から高校の教員用に防災教育ハンドブックの製作に乗り出すのも防災訓練のマンネリ化に危惧(きぐ)を抱いたからだろう。

 震災の記憶の風化を防ぐには語り継ぐだけでなく「かたち」に残す手立てがある。本紙が震災モニュメントマップ(17日朝刊)を掲載して10年になる。慰霊碑や記念植樹などは当初の55から285を数えるまでに増えた。地図に落とし込まれた設置場所はそのまま激震地域を雄弁に物語り、「あの日」を心に刻み込む。

 神戸市の「人と防災未来センター」には被災から復興過程をたどるジオラマ(立体模型)がある。制作に携わった造形作家の南條亮(あきら)さん(65)は明治から昭和の記憶をジオラマで「かたち」にしてきた。

 芝居小屋でにぎわう大阪・道頓堀、空襲に逃げ惑う人たち、戦後の闇市からポン菓子売り、めんこ遊びなど。表情豊かな900体近くの人形がつどって生活風景を再現している。

 南條さんは言う。「21世紀を生きるには20世紀の現実を集約して教訓にしなければ。そのためのものづくり」

 いま世界不況の深刻化で住まいはおろか最低限の生活も脅かされている人たちがいる。

 もとより政治の出番だ。希望が持てる「国のかたち」を具体的に語り、人々に伝わるように伝えなければならない。もはや思考停止や迷走は許されまい。(論説室)




毎日新聞 2009年1月18日 大阪朝刊


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