わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

甘い汁=落合博

2008-03-18 | Weblog

 上方落語に「ぜんざい公社」という噺(はなし)がある。たった一杯のぜんざいを食べるために男が窓口をたらい回しされ、書類を書かされ、手数料を要求されるという内容でお役所仕事を風刺している。法律をたてに威圧的な態度をとる役人たちが登場する。

 大相撲の力士暴行死事件について、ノンフィクション作家の長田渚佐さんが朝日新聞に意見を寄せている。「人命を預かる親方は免許制にし、更新が必要な形にするべきだ」。もろ手を挙げて賛同できない危うさを含んでいる。

 数ある職業資格の中で教員免許の更新制が来年度から始まる。10年に一度、30時間程度の講習が義務付けられる。「教員の資質維持と能力の向上」と言えば聞こえはいい。だが、国による学校管理が進むとの指摘もある。

 スポーツ界を見回すと、ライセンス(免許)の取得が義務付けられているのはサッカー・Jリーグの監督(S級ライセンスが必要)ぐらい。プロ野球は誰を監督に据えるか各チームが決める。アマチュアも同様。これをスポーツの後進性と切り捨てるか、自主・自立(自律)とみるか。

 自民党のスポーツ立国調査会(麻生太郎会長)が「スポーツ庁」の09年度発足を目指している。スポーツ関連予算を増額し、国家戦略としてトップアスリートの育成などに力を入れるという。さまざまな許認可の権限とカネを役人が握る。そして、政治の圧力が高まる。

 落語に戻る。ようやくぜんざいにありついたものの、少しも甘くないことに抗議する男に役人が言う。「甘い汁はこっちが吸うてます」(運動部)




毎日新聞 2008年3月15日 東京朝刊


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